「次の時代に残るのはものか、コンセプトか」アーティスト・持田敦子の創作の原動力とは?
家の一部が切り取られ回転する。行き先のない螺旋階段が屹立する。持田敦子の作品は建物や空間に介入するダイナミックなものだ。
──なぜこうした作品をつくるように?
子どもの頃、壁際のベッドで眠るなど、壁と“親密な関係”を築いていました。美大に通っていたとき、大学の階段にそのベッドルームの壁を拡大して設置するというインスタレーションをつくったんです。プライベートをパブリックな場に差し込むコンセプトです。留学先のドイツでは刑務所だった建物の壁を抜いて内外をつなげる作品を考えました。でも壁は厚さが60cmもあって無理だよ、と笑われた。そこで建築やエンジニアリングの学生にも協力してもらい、壁のれんがを一つ抜いてつくった小さな穴から内部と外部をパイプで円環状につなぐ作品を発表しました。壁は建物を支えるほかにもいろいろな意味がある。そこに穴を開けてみたいと思ったんです。
──家の一部が回転する《T家の転回》の舞台となったのはお祖母さんの家だそうですが。
第二次世界大戦前に建てられた古い家で、祖母が結婚して移り住み、子どもを産み育てた、私の母の生家でもあります。出産とともに増築を繰り返した家が少しずつ朽ちていく様は、年々自由がきかなくなってゆく祖母の身体とも重なりました。また制作時に、建物を支える構造を切ること、つなげることを建築用語でそれぞれ「縁を切る・つなげる」ということを知り、建物も人間関係と同じだな、と興味深く思いました。母や祖母が生きていたのは、家と女性が今よりももっと密接に結びついていた時代です。《T家の転回》では、祖母が逃げ出したいと思ってもできなかった「家」の「縁」を切って回転させ、空気を入れ換えます。じめじめした畳など、家に潜んでいた「闇」を外に出して白日の下にさらす。この作品の背景にはそんな家と女性の関係性もあります。
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《T家の転回》(2017)。10年以上放置されていた木造家屋を舞台に制作された作品。直径5mの円形に切り取られた家が回転する