建築家・内藤廣による過去最大規模の個展。「建築家・内藤廣/Built と Unbuilt 赤鬼と青鬼の果てしなき戦い」が島根県立石見美術館で開催へ
Unbuilt 赤鬼と青鬼の果てしなき戦い」が同センター内・島根県立石見美術館
で開催される。巡回なし・同館のみで開催される貴重な展覧会だ。会期は9月16日~12月4日。
内藤は、1976年に早稲田大学大学院修士課程を修了。フェルナンド・イゲーラス建築設計事務所や菊竹清訓建築設計事務所を経て、1981年に内藤廣建築設計事務所を設立した。主な建築作品に、海の博物館や安曇野ちひろ美術館、とらや赤坂店、銀座線渋谷駅などが挙げられる。
会場となる島根県芸術文化センター「グラントワ」は、内藤によって設計された「島根県立石見美術館」と「島根県立いわみ芸術劇場」が一体となった施設だ。2005年10月に開館し、石見地域の芸術文化拠点として美術や音楽、演劇まで幅広い芸術が一堂に集結。互いに影響を与えあいながら、高品質な芸術文化の鑑賞機会を創出してきた。同センターの建築は、石見地方の伝統産業であり独特な赤みが特徴の「石州瓦」を基調とした開放的かつ美しい設計が特徴でもある。
そんな同館で開催される本展では、内藤の初期から近作までの建物のみならず、今回初公開となるものも含めた「アンビルト(実際には建てられていない)建築」の設計図面や模型も紹介される点が見どころだ。
会場は「Built 内藤廣の建築」「Unbuilt 内藤廣の思考」「BuiltとUnbuilt
をつなぐもの」「内藤廣の言葉」の4セクションで構成される。まず「Built 内藤廣の建築」では、内藤の代表作を模型や図面、写真などによって紹介。2005年に竣工された「グラントワ」を中心に、海の博物館(1992)や牧野富太郎記念館(1999)など2005年以前に設計された作品を約10件、静岡県草薙総合運動場体育館(2015)、高田松原津波復興祈念公園 国営
追悼・祈念施設(2019)、紀尾井清堂(2021)といった2005年以降の作品も約15件展示される。
様々な事情により実現しなかった建物や架空のプロジェクトを、図面や模型によってあらためて紹介する「Unbuilt
内藤廣の思考」は、とくに建築ファンにとっては嬉しい内容だろう。内藤の卒業設計から近年のコンペシート、度々記された内藤の手帖までもが展示され、時代の流れとともに変遷していった思考の軌跡や知られざる思いをたどるものとなる。また、現在進行中である最新プロジェクトもすべて公開されるというのだから驚きだ。これらは「未だ実現していないもの」として未来への展望を示すための足がかりとなるという。展示予定の「アルゲリッチハウス」(2012)などは本展のために模型を1からつくり直したそうだ。
また、本展オリジナルのインスタレーションも2点展示予定。「BuiltとUnbuilt
をつなぐもの」では、海の博物館の特徴的な架構をモチーフにしたインスタレーションが出現。実際存在している建築(Built)を利用し、存在しないもの(Unbuilt)を示す試みとなっている。「内藤廣の言葉」セクションでは、内藤の著作から集められた様々な言葉と、石州瓦に覆われたグラントワの外壁の美しさをとらえた映像によるインスタレーションが展示される。
ここまで読んで気になるのは、展覧会タイトルに登場する「赤鬼」「青鬼」ではないだろうか。これらは内藤が設計をするときに胸の内で起こる「赤鬼(情熱、逸脱、放蕩)」「青鬼(論理、堅実、緊縮)」の葛藤を示している。本展ではこのふたりの鬼が内藤に代わり、様々なプロジェクトを解説してくれるようだ。鬼のほかにも内藤に関連する「亡霊」も登場するというから興味がそそられる。
開催に先立ち、内藤はタイトルに込めた思いについて、次のように語っている。「赤鬼と青鬼は誰の心にも住んでいる。以前この鬼をモチーフに若い人と話をしたところ、関心を持ってもらえたため、本展ではこの手法を全面に押し出して建築展をやってみようと考えた。(建築ファンはさることながら)建築を知らない方や子供にも楽しんで、笑ってもらえる内容になるのではないか。乞うご期待ください」。
また同館センター長の的野克之、そして担当学芸員の川西由里は開催に強い意気込みを見せる。「当センター開館以来願ってきた、内藤建築での内藤展が満を持しての実現となる。当館のみ、巡回なしの貴重な展覧会となるため、多くの方にご覧頂きたい。グラントワの建築を見る良い口実ができたと思って、展示にも足を運んでみて欲しい」。
なお、内藤本人が登壇する講演会や建築ツアーといった関連イベントも実施予定。詳細はグラントワ公式ウェブサイトやチラシ等で随時発表されるため、気になる方はぜひチェックしてみてほしい。