彫刻家の登竜門「第29回UBEビエンナーレ」 大賞は西澤利高さん
国内最大規模の野外彫刻展として、隔年で開催(2021年は新型コロナウイルスの影響で1年延期)。彫刻家の登竜門として知られ、60年を超える伝統がある。今回は欧州やアジアなど49カ国・地域から299点の応募があり、1次審査を通過した15点を展示。1日には宇部市で選考委員会(酒井忠康委員長、8人)が開かれ、入賞8点が決まった。
◇選考結果(敬称略 金額は賞金)
大賞(UBE株式会社賞)400万円
「ディスタンス」西澤利高(神奈川県)
毎日新聞社賞100万円
「満―宇部の空気―」上田要(京都府)
山口銀行賞100万円
「wind whisper」平山悟(山口県)
柳原義達賞50万円
「Inflating shadow」藤沢恵(埼玉県)
宇部商工会議所賞50万円
「月と山、水脈」岡田健太郎(神奈川県)
島根県吉賀町賞20万円
「in Wave ~Departure~」佐野耕平(京都府)
山口県立美術館賞20万円
「わたしはここで」布藤喜帆(滋賀県)
島根県立石見美術館賞20万円
「進化景色(森から)」土田義昌(千葉県)
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◇コロナ禍の「狂った距離感」表現
山口県宇部市のときわ公園で2日に開幕する「第29回UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)」(宇部市、毎日新聞社など主催)の選考委員会が1日、同市内で開かれ、西澤利高さん(57)=神奈川県=の「ディスタンス」が大賞に選ばれた。新型コロナウイルス禍で「狂った距離感」を形にした作品(高さ2・1メートル、幅1・96メートル)で、アクリル板を二つの楕円(だえん)が重なったように彫刻した。透明なアクリル板を通して、公園内の湖や空が望める。
コロナ禍で、ディスタンス(距離)を取ることが推奨される中、「人だけでなく、風景との距離感も狂ってしまった」と西澤さん。アクリル板を通した景色はくっきりと見えるようでいて、二つの楕円が重なった中央部分はねじれ、ゆがんで見える。すぐそこにあるはずなのに、実は「仕切り板」で隔てられている。そんなもどかしさや距離感が表現されている。
西澤さんは岐阜県出身で、東京芸術大学大学院の彫刻専攻を修了。「内側と外側を反転させ、二分割されたものを一つにすること」が卒業制作以来、現在に至るまで一貫した西澤さんのテーマだ。その中で「ねじれ」の表現も生まれ、今回の制作にも生かされた。
2015年にはUBEビエンナーレで山口銀行賞を受賞。彫刻に親しむ市民の姿に感銘を受けた。だからこそ「単なるコンペではなく、この街でこの賞をいただけたことがうれしい」と笑顔を見せた。【上村里花】