ヘルツォーク&ド・ムーロン設計、香港の現代視覚文化美術館〈M+〉徹底レポート。
「建築は人が使ってこそ生かされるもの。コロナ禍を経てこうして人が集まり、エネルギーが流れてる様子を目にして、本当にうれしく感じます」。
インタビューに答えてくれたド・ムーロンも感激を口にする。ヘルツォーク&ド・ムーロンにとって、〈M+〉は2018年に開館した旧警察署や刑務所を増改築した〈大館〉(タイクン)に続き、香港では2つ目の作品。建築以外の部分も含めると設立には7億6千米ドル(今の為替だと約1000億円)が費やされたとされる〈M+〉は、建築もコレクションも巨大なプロジェクトである。
まずはロケーションについて説明したい。「西九龍文化地区」(WKCD) は九龍半島の南西端に位置する40ヘクタールの埋立地にある。ここを文化地区にする計画は、1997年に香港全土がイギリスより中国に返還された翌年、香港政府によって発表された。
具体的に動き出したのは2008年のこと。フォスター&パートナーズによる、緑豊かでサステナブルな開発を目指すマスタープランをもとに計画が始まった。その中の最大のプロジェクトが、20世紀&21世紀のビジュアルアートに特化した美術館〈M+〉である。
エリアにはヴィクトリア湾を望むアートパークほか、〈香港故宮文化博物館〉 や〈戯曲センター〉 など、中国文化を打ち出す施設が既にオープンしている。〈M+〉の隣にも〈リリック・シアター〉が建設中だ(UNスタジオが設計)。
車でのアクセスは地下レベルのみのカーフリーゾーンだが、空港と直結するエアポートエキスプレスと、深圳をはじめ中国の各都市を結ぶ高速鉄道の駅があり、国内外からのアクセスは抜群。金融、貿易だけに頼らず、カルチャーツーリズムの占める割合をGDPの%まで引き上げようというアンビシャスな公共プロジェクトである。
〈M+〉の建築コンペは2012年に行われた。ヘルツォーク&ド・ムーロン(スイス)のほか、スノヘッタ(ノルウェー)、レンゾ・ピアノ(イタリア)、そして日本からは、SANAA、坂 茂、伊東豊雄の6チームがショートリストされている。翌年、ヘルツォーク&ド・ムーロンの案(TFP Farrellsとの協働。構造はアラップ)のセレクトが発表になる。