藤井竜王の「6分」に感じたすごみ、高田四段のタピオカドリンクに見た勝負師の感性[観る将が行く]
読売新聞オンラインの竜王戦担当になって、もう3年になるが、飽きるどころか、最近はどんどん沼にはまっていく自分を感じている。
なにせ、魅力的すぎるのだ。勝つか負けるか、すべては自分次第。そんな厳しい世界で生きる「棋士」という人たちが。
将棋担当歴で言えば自分と“同期”にあたるカメラマンのWくん――将棋ファンのみなさんは彼の名前をご存じだろうが、このコラムでは当初からイニシャルにしている――も多分、同じ気持ちだと思う。
先日、ゲスト出演した読売新聞のポッドキャスト番組「新聞記者 ここだけの話」でも、高田明浩四段と「タピオカドリンク」について熱く語っていた。
舞台は今期の竜王戦ランキング戦6組決勝。勝てば決勝トーナメント進出が決まる大一番で、しかも相手は同じ19歳の伊藤匠五段。藤井竜王と同い年の若手同士の激突とあって注目を集めたこの対局に、高田四段は朝、かなりビッグサイズのタピオカドリンクを片手に現れた。
棋士は対局中の栄養補給に自分の好きな飲み物やおやつを持ち込むことができる。タピオカというのもいかにも19歳らしい選択だ。ただ、Wくんがカメラを向けて驚いたのは、すでにストローもさしてあるタピオカドリンクに、ほとんど、いや、おそらく一度も口をつけた形跡がなかったことだ。ラベルを見ると、どうやら、新宿のルミネで購入したものらしい。
「新宿から千駄ヶ谷の将棋会館までそれなりに時間かかりますよね。その間、口をつけないって、結構すごいことだと思うんですよ」と力説するWくん。なるほど、確かに。自分が好きな飲み物ならなおさらだ。会館に着くまでに一口、二口は飲みたくなるだろうし、なんなら、飲み干してしまうかもしれない。
選ばれたトップ棋士しか出られない竜王戦本戦出場、ランキング戦優勝をかけた大一番。高田四段はどんな心境でタピオカドリンクを持って対局に向かったのか。その日は大熱戦の末に敗れたため、声をかけることはできなかったそうだが、Wくんは高田四段の勝負師としての独特の感性を感じたのだそうだ。