HOSOO GALLERYで見る髙橋大雅のクリエイション。過去の記憶を未来につなぐ「布」
Textile Vol.2: 時間の衣」が開催されている。会期は2023年3月12日まで。
髙橋は1995年生まれ。2010年ロンドン国際芸術高校に入学し、13年にセントラル・セント・マーチンズに進学した。15年にはベルギーのアントワープやロンドンのメゾンでデザインアシスタントを経験し、17年、同大学を卒業後に渡米。「TaigaTakahashi,inc.」をニューヨークで設立した。21年12月には京都祇園に髙橋がデザインした服・建築・茶室・彫刻作品からなる「服・食・住」すべてを体験できる総合芸術空間「T.T」をオープンさせた。22年4月に髙橋は27歳の若さで逝去した。
本展は「織物から建築へ」をテーマに、織物(テクスチャー)に端を発した工芸、アート、デザイン、建築にまつわる思想の変遷を、20世紀初頭に立ち返り研究活動を展開するリサーチプロジェクト「Texture
from Textile」 の第2弾。
会場には髙橋が10代より蒐集してきた、約2000点もの20世紀前半を中心とした服飾資料のなかから、厳選されたものが展示。ワークウェアやジャケット、コートとジャンル分けをされたコレクション群が並ぶ。
髙橋はリバースエンジニアリングの観点から当時の布地や縫製の技術を研究
しており、その成果を自身の服づくりに落とし込んできた。会場には往時の衣服と髙橋のデザインしたコレクションが並べて展示されている空間もあり、衣服がつくられた当時の思想と技術を、髙橋がいかに解釈してアウトプットしていたのかがよくわかる。
髙橋のコレクションの中心となっていたのがアメリカのヴィンテージクローズであることも注目に値すると、本展担当キュレーターの井高久美子は言う。「20世紀になり、ヨーロッパからアメリカに経済の中心が移っていく過程で、ヨーロッパとは異なるアメリカ独自の服飾文化が発展していった。実用的な労働着として装飾性を廃し、直線的で修繕がたやすいカットを追求したアメリカのヴィンテージクローズは、どこか日本の着物にも似た思想を持っていると言え、このHOSOOで展示を行う意義も大きい」。
展示された衣服にはすべてタグがつけられており、これを参照しつつ時代とともに変化していった衣服を見ることも本展の楽しみのひとつだ。デニム生地の労働着も、年代を追うごとにファッションとなり、装飾的なボタンやステッチが現れる。こうした、洋服の持つ意味が変わっていくことも、髙橋の想像力を刺激したのだと推察できる。
髙橋は自身の思想のアウトプットを洋服のみならず、様々なメディアにも広げていた。それがよくわかる展覧会が、祇園の京都建仁寺塔頭両足院と総合芸術空間「T.T」で開催されている(12月11日まで)。
両足院での展覧会「不在のなかの存在」は、髙橋がガラスや石膏、玄武岩といった素材で制作した作品を大書院や庭園で展示している。いずれも、仏像が身にまとう布からインスピレーションを受けたもので、両足院の静謐な空間で改めて衣服の持つ意味や歴史を問う。
「T.T」では常設の髙橋のデザインによる玄武岩の彫刻作品や石彫家・故和泉正敏氏から贈られた彫刻とともに、これまでの髙橋が手がけたコレクションをみることができる「時をうつす鏡」を開催。実際に衣服を手に取り、アーカイヴから鏡のように写し取られた縫製やパターンの妙を楽しむことができる。
京都各所で、髙橋の足跡と今後も受け継がれていくであろう思想を感じてみてはいかがだろうか。