「日本の風景」はいかに描かれてきたのか。山種美術館で見るその変遷
古くから四季折々の風景が美術の題材として描き継がれてきた日本。その始まりは平安時代であり、和歌に詠まれた景色が屏風などに絵として残されていった。室町時代には禅宗文化の定着とともに、中国風景を題材とした山水画が流行。19世紀の江戸後期には、街道が整備され人々の旅に対する意識が増し、日本各地の宿場や名所をとらえた歌川広重の浮世絵風景画が高い人気を得る。
明治に入ると、西洋の写実的な風景画の流入や日本各地の風土への関心の高まりにより、目の前に広がる身近な自然が描かれ始めた。さらに昭和の戦後には、抽象的な表現や画家の心に刻まれた景色も風景画に取り入れられるようになり、日本の風景の描かれ方はさらに多様化していった。
山種美術館で開催中の特別展「日本の風景を描く
―歌川広重から田渕俊夫まで―」(2023年2月26日まで)は、こうした日本の風景や自然を題材にした作品に焦点を当て、江戸から現代まで、日本の風景画の変遷を65点の作品でたどるものだ。
展示は「日本における風景表現の流れ」「風景表現の新たな展開」の2章構成。第1章では、「山水画」から「風景画」への変化を担ったキーパーソンとも言える川合玉堂のほか、『伊勢物語』で詠まれた和歌の名所を題材とする酒井抱一の《宇津の山図》、宿場や名所を中心に抒情豊かな風景を表した歌川広重の《東海道五拾三次》など、江戸時代を中心とした伝統的な日本の風景表現を通覧することができる。
続く第2章は明治以降、近代の画家たちが開拓した風景表現の広がりを紹介するものだ。山種美術館は日本画コレクションで広く知られるが、じつは洋画の数々も所蔵してきる。このではその洋画コレクションのなかから、波打ち際で人々が棒に集まり海水浴を行う様子を描いた黒田清輝の《湘南の海水浴》や、伝統的な日本の技法に洋画の技法を加えた荻須高徳の《サン・ドニ風景》が展示。
いっぽう日本美術では、風景画の巨匠・東山魁夷、院展の画家・田渕俊夫、若き日の千住博の作品なども並ぶが、とくに注目したいのは石田武だ。動物図鑑などのイラストレーターとしてら活動したのちに日本画に転向したという経歴を持つ石田。その大画面の連作「四季奥入瀬」は、近代になって名所となった奥入瀬渓谷の四季を4枚で表現したもの。この4点が一挙に展示されるのは1985年に発表されて以来初めてのことであり、なかでも春と夏を描いた《四季奥入瀬
春渓》と《四季奥入瀬
瑠璃》の展示は37年ぶりという貴重な機会だ。実際に奥入瀬を取材したこの大作。山種美術館顧問の山下裕二は「とくに冬の雪景色は空気感がよくでている」と評している。
山水画を手本としながら、独自の発展を遂げてきた日本の風景画。その変遷を、あらためてたどればきっと発見があるだろう。なお、本展では有料のオンライン講座も開講。本展出品作家の安原成美による制作過程の解説を見ることもできる。