【独自】アーツ前橋の問題が東京藝大に波及。アーティスツ・ユニオンが意見書提出、学生が説明を求める動きも
また、前館長が教授を務める東京藝大大学院の学生からも大学側に説明を求める声が上がっている。
2013年の開館以来、気鋭の作家の個展などでアートファンに親しまれてきたアーツ前橋では近年、ふたつの問題が起きた。
ひとつは、故人作家2人の遺族から預かった木版画4点と書2点を紛失した件。同館が2018年12月に調査目的で預かり、廃校舎のパソコン室で一時的に保管していた52点のうち、計6点が見当たらないことが2020年1、2月に発覚した。遺族への紛失連絡は同年7月、前橋市の発表は同年11月に行われ、対応の遅さや作品保管のずさんさが批判された。その後、市が設置した有識者による調査委員会が2021年3月に公表した報告書は、前館長と担当学芸員が借用作品リストの改ざんによる紛失の隠蔽や虚偽の説明を図っていたという内容を記載。前館長は会見を開き、「隠蔽や嘘はない」と反論したが、市は前館長ら5人を訓告処分とした。前館長は、紛失発覚前からの予定通りに同年3月末に退任した。いっぽう、市は紛失作品について盗難の疑いがあるとして前橋署に被害届を提出。捜査が続くなか、今年3月に市は2作家の遺族に計400万円の賠償金を支払い和解した。
もうひとつが、ユニオンが意見書で取り上げた企画展「山本高之とアーツ前橋のビヨンド20XX 未来を考えるための教室」を巡る契約不履行だ。市は昨年、アーツ前橋がアーティストの山本高之と結んだ契約を守らず記録集の作成を中断し業務委託料の一部が未払いだったとして山本に謝罪し、賠償金として80万円を支払った。今年3月末、同館ホームページに山本龍市長の名前で報告文が公開され、同時期に記録集が約3年半遅れて発行された。報告では、前館長が市に対し事実と異なる経過説明を行ったことにより「行政として正しい判断ができない状態が長く続き」発行遅滞に至ったと説明している。
「山本高之とアーツ前橋のビヨンド20XX 未来を考えるための教室」記録集(デジタル版)はこちら。
アーツ前橋は館長不在が続いたが、今年5月に特別館長に森美術館特別顧問の南條史生が就任。運営責任者の館長は、元兵庫県立美術館学芸課長の出原均が就いた。就任会見で南條は「管理体制を精査し、改善できるところはして、(館の)再生プロジェクトを進めたい」と延べ、10月から開催する館の10周年記念展に意欲を見せた。
信頼回復を目指しアーツ前橋が再出発するなか、東京藝大に対しアクションを起こしたアーティスツ・ユニオンメンバーの美術家・映像作家の田中功起、同ユニオンオブザーバーの彫刻家・評論家の小田原のどか(プレカリアートユニオン多摩美術大学支部長)、説明を求めた学生に話を聞いた。