「美しさ伝えたい」 ウクライナ出身現代美術作家がチャリティー展

ウクライナのマリウポリに生まれたビクトリアさん。幼少期を過ごした後、イスラエル、カナダなどで移民として生活してきた。現在はドイツを拠点に、国際的に活躍している。
同展では、限界集落に住む高齢者を撮影した「帰らざる国」、自身の幼少期をテーマとした「あいだの空間」、伝統的な食卓の様子を捉えた「遠くて近いもの」の3シリーズから約30点を展示している。
講演では、作品を撮影した際の思い出などを紹介。9年かけて撮影した「帰らざる国」では、家族が過ごしていた町も訪れた。「そこにあるもの全てを美しいと感じた」とともに、「残されている人たちとともに文化が消えてしまう」と、ウクライナの精神やライフスタイル、場所や人々の美しさを伝えている。
さまざまな芸術分野に関わるアーティストだった祖父の影響から写真に興味を持ったビクトリアさん。ウクライナの風景や伝統を写す作品の軸にあるのは幼少期の記憶だ。移民として暮らす中、「居場所を見つけ、感じることは難しかった」が、家族と過ごしたウクライナの思い出や自然を表現することで、「私自身のアイデンティティーを見つけられる。ウクライナは私のふるさと」だという。
多文化の中で生きてきたビクトリアさんは、違う文化や背景を持っている人でもつながりを持てることを望んでいる。写真という視覚表現を通じて、「言語ではなく魂のつながりを感じてほしい」という。
講演と写真を通じて、同大3年の大城美月さん(20)は、「言葉がなくても力強さ、生命力が伝わってきた」といい、心に訴える写真の力を感じた。同じく3年の肥前朱音さん(20)は、「ウクライナの食文化も知ることができて親近感を持った。周りを巻き込んで支援活動をしていきたい」と話した。
講演中、「画期的で美しい都市だった」というマリウポリが爆撃により破壊された映像に涙を堪え切れなかったビクトリアさん。ウクライナに住む両親や親戚は、家が破壊され避難生活を送っていたり、いまだに連絡が取れていなかったりする。現状に対して、「とても見るのが難しい。信じられないし、啞然(あぜん)としている」と心を痛めている。
「強いスピリットやユニークな文化を持っている」というウクライナ。作品から「文化や歴史を伝え、日本人とウクライナ人のつながりを感じてもらいたい」という。ビクトリアさんは、アートを通じてふるさとを支えている。
29日まで。入場料は500円以上。入場料や作品の売り上げなどは、日本ユニセフ協会の「ウクライナ緊急募金」に支援される。(鈴木美帆)