竜王戦ドリームはついえても、“匠”の技見せた伊藤五段
前回のコラム で紹介しきれなかった本戦トーナメント左の山では、6組優勝の 伊藤匠五段 に注目して観戦していました。1回戦で5組優勝の 佐々木大地七段 、2回戦で4組優勝の 大橋貴洸六段 に勝利する快進撃を見せましたが、惜しくも3回戦で1組5位の 稲葉陽八段 に敗れ、今期の竜王戦本戦トーナメントは終了となりました。
特筆すべきは、1回戦は相掛かり、2回戦は矢倉の戦型で両方とも後手番で序中盤から押し切る快勝をされているんですよね。相居飛車戦は、特に主導権を握って攻めることができる先手番が、少し指しやすいと言われているんです。その逆境をはねのけての快勝ということで伊藤五段の強さ、そして序盤研究の深さがうかがえました。今期は5月から7月にかけて13連勝を成し遂げ、現在も8割の勝率をキープしています。
伊藤五段は宮田利男八段門下で、幼いころから三軒茶屋の将棋道場で兄弟子たちと共に腕を磨いていたということですが、私が女流棋士になったばかりの高校生のころ、蒲田将棋クラブで指している姿も何度か見かけたことがあります。皆から「たっくん」と呼ばれ、道場の席主さんをはじめとして、プロ棋士からアマ強豪まで、様々な方々にかわいがられている、めちゃくちゃ強い小学生という印象でした。
しっかり努力し、将棋大会や強豪が集う道場に積極的に通う彼の姿を皆、目に焼き付くほど見ていて、やっぱり、そういう姿を見ると自然とまわりの人たちが応援してくれるようになるんですよね。特にその努力を評価していた勝又清和先生(七段)が小学生の伊藤五段に会うと、目じりが下がりメロメロ?になっていた印象があります。藤井聡太竜王と生まれ年が同じ新鋭がタイトル獲得をする日が今から楽しみです。