香取慎吾インタビュー。絵画で表現する自分のなかの「闇」と「光」
──個展の開催は、2018年のパリ・ルーヴル美術館、2019年の「BOUM! BOUM! BOUM! 香取慎吾 NIPPON 初個展」(東京)に次いで3回目です。今回は巡回展も行うそうですね。
今回の「WHO AM I」は、大阪や福岡、金沢、福島と全国を巡回する予定です。巡回展を行うと聞いて、全国各地をめぐるライブツアーを連想しました。なので、サブタイトルは「SHINGO KATORI ART JAPAN TOUR」。アートツアーってなんだろう?と思ってもらえるといいかな、と。
──長年、音楽活動を行っている香取さんならではのアイデアですね。新しい発見や気づいたことなどはありますか?
展覧会の会場が、広さや会場の形状、天井の高さなど何もかも違うことですね。ライブコンサートでは、会場の規模に応じて、劇場、ホール、アリーナ、ドームといろいろありますが、基本的なつくりはほとんど同じです。まず舞台があり、それに向き合うように正面に客席がある。でも展覧会の会場は、面積も天井高も形も、どこもまったく異なる。だから、会場ごとに展示の構成や見せ方を考える必要があります。作品が大きすぎて搬入できない作品もあるんですよ。「ではその作品をどうするか? かわりに少し小さいサイズのあの作品を入れてみたらどうだろう?だとしたら隣にこの作品を置いてみたら、周囲の雰囲気が変わるんじゃないかな?」と、ライブのときのセットリストのような感覚で、展示作品の組み合わせを考えています。これが、けっこう大変で、けれどもとても面白いんです。
──会期中、頻繁に会場に足を運び、会場で新しい絵も描いていると伺いました。
絵を描くだけじゃなくて、来てくれたお客さまたちとお話もしたいと思っています。だから、絵は描かずに、お話しだけする日もありますよ。時間を作り、できるだけ会場にいるようにしています。来てくださるお客さまは、ありがたいことに展覧会を細部までしっかり見てくれていて、自分でも考えが及ばなかったことを質問してくれる。たとえば、「最近、ダンボールに直接描いた作品が多いのですが、どうしてなのですか?」といった質問を受けました。自分でも気づかなかったことです。でも、思い返してみると、たしかにダンボールが多い。
──自分の新しい傾向を、鑑賞者側が気づいて指摘してくれるのは非常に貴重な機会ですね。ちなみに、どうしてダンボールが増えたのですか?
絵を描き始めた当初はダンボールにばかり絵を描いていました。それはたんにキャンバスを知らなかったから。その後、キャンバスの存在と描きやすさを知り、現在まで引き続きキャンバスに描いています。最近は、依頼を受けて絵を描くことが増えています。リクエストに合わせて絵を描くのとは、いつもの絵を描く制作とはまた違う楽しさがあるんですけれど、やはり仕事ですから自分の本来のマインドとは少し違う。そこで、机の上に仕事の絵を描くためのキャンバスを置き、床にはダンボールを敷き詰めることにしました。ダンボールは床が汚れないように敷くわけではなく、キャンバスでの制作作業が一息ついたときや行き詰まったときに、すぐに絵を描くためのものです。床に座り込んで描くんです。
──絵の仕事が増えるたびに、ダンボールの新作も増えていくわけですね。
そうなんですよ。先日も、100号くらいの大きなキャンバスが届いたんですけれど、梱包しているダンボールが折れ曲がらないように、かなり丁寧に気を使ってダンボールを取り出しました。キャンバスよりも大事に扱っていたくらい(笑)。