【古典俳諧への招待】水桶にうなづきあふや瓜茄子(うりなすび) ― 蕪村
俳句は、複数の作者が集まって作る連歌・俳諧から派生したものだ。参加者へのあいさつの気持ちを込めて、季節の話題を詠み込んだ「発句(ほっく)」が独立して、17文字の定型詩となった。世界一短い詩・俳句の魅力に迫るべく、1年間にわたってそのオリジンである古典俳諧から、日本の季節感、日本人の原風景を読み解いていく。第34回の季題は「瓜・茄子」。
水桶にうなづきあふや瓜茄子(うりなすび) 蕪村
(1745~1746年頃の作か、『蕪村句集』所収)
「水桶(おけ)の中で瓜や茄子が揺れている。まるでうなずきあっているかのようだ」。瓜はマクワウリでしょう。当時、茄子は生でも食べていたので、いわゆる「冷やし物」として水に浸(つ)けているところかと思われます。旬の野菜のみずみずしい色合いが涼しさを感じさせますが、写生の句ではありません。
句には「青飯法師(せいはんほうし)にはじめて逢(あい)けるに、旧識のごとくかたり合(あい)て」(青飯法師に初めて会ったのだが、前からの知り合いのように語り合って)という前書(まえがき)がついています。つまりこの句は、初対面ながら話に熱中し、頭を寄せてうなずきあっている蕪村と青飯法師の様子をたとえたものなのです。当時蕪村は頭を丸めており、丸い瓜と茄子は2人の坊主頭を表しています。ユーモアたっぷりのカワイイたとえですね。青飯法師は別号を雲裡坊(うんりぼう)といいましたから、「瓜」は「うんり」の洒落(しゃれ)でしょうか。自分より23歳年上で流派も異なる俳人とこんなに話が合うなんて、蕪村も予想外だったかもしれません。
瓜・茄子を並べた句といえば、芭蕉に「秋涼し手毎(てごと)にむけや瓜茄子」(秋の涼しいこと、さあ、おのおの自分で皮をむいて瓜や茄子をいただこう)、其角に「豊年」と題した「ぬか味噌(みそ)に年を語らん瓜茄子」(ぬか味噌に豊作の年だったと語ろう、瓜や茄子を漬け込んで)の句があります。蕪村は尊敬していた先人の作を頭に浮かべつつ、より滑稽(こっけい)味を強めた瓜・茄子の句によって、年上俳人に敬意を込めたあいさつをしたのでした。
深沢 了子
聖心女子大学現代教養学部教授。蕪村を中心とした俳諧を研究。1965年横浜市生まれ。東京大学大学院博士課程単位取得退学。博士(文学)。鶴見大学助教授、聖心女子大学准教授を経て現職。著書に『近世中期の上方俳壇』(和泉書院、2001年)。深沢眞二氏との共著に『芭蕉・蕪村 春夏秋冬を詠む 春夏編・秋冬編』(三弥井書店、2016年)、『宗因先生こんにちは:夫婦で「宗因千句」注釈(上)』(和泉書院、2019年)など。