「え、これが渋谷?」 上空からしか見えない、知られざる“空撮の世界” 写真家・吉永陽一〈dot.〉
吉永陽一さんが撮影した1枚の空撮写真について、「これは東京・渋谷です」と言われ、驚いた。こんな渋谷は見たことがない。
人が集うのんびりとした公園のような場所にヘリポートが設けられている。すぐとなりは大規模な工事現場で、2基の大型クレーンが写っている。なんだか不思議な場所だ。
実は、公園のように見えるのは高さ229メートルの高層ビル「渋谷スクランブルスクエア」の屋上展望施設。隣接するのは改良工事が進むJR渋谷駅だった。それらを真上から撮影することで、まったく別の世界が一体化して見える。
旅客機だったら事故
この写真について、「飛行機の窓から身を乗り出して写したんですか」と尋ねると、吉永さんは、とんでもない、という顔をした。
「窓から身を乗り出すと、風圧を受けますし、万が一、機材を落としたら大変ですから」
カメラはストラップを首にかけていれば大丈夫だろう、くらいに思っていたのだが、落下防止への気配りは想像以上だった。
「撮影時には落下の可能性がある腕時計は外します。普段、ピアスをしていれば、それも外す。交換レンズやバッテリーは1カット撮影するごとにボディーに確実に装着されているか、チェックする。空撮はそれくらい万が一を考えて行動しなければならない世界です」
では、どうやって機内から真下を撮影するのか?
「飛行機をそれだけ傾けるんですよ」と、吉永さんはことなげに言う。
「セスナ機だったら60度くらいの傾きは飛行機の性能の範囲内です。でも、そこまで機体を傾けると、ふつうの人は直角に感じます。もし旅客機でそうなったら、事故ですよ」
別な写真はJR東海の大井車両基地(品川区)を写したもので、新幹線の車両がたくさん並んでいる。その上を羽田空港に向けて低い高度で飛ぶ旅客機が重なって見える。
「これは撮影のタイミングを合わせるのが難しかったですね。ある程度、飛んでくる旅客機の位置のあたりをつけて、上空を旋回して、微調整して撮影しました。本当はもっと新幹線と旅客機の向きをそろえて撮りたかったのですが、この日はこれが限度でした」
空撮で使用する飛行機の料金は飛行時間で算出される。シャッターチャンスを待って旋回していると、その間の料金がチャージされる。さらに地方で空撮する場合、東京・調布飛行場など、拠点空港からの回送料金が必要となり、100万円単位の費用がかかる。なので、空撮はいかに最低限の費用で最高の写真を撮るか、「常にコストを考えなければならない世界」だという。