アーティストに労働者として権利を。日本初の現代美術家による労働組合「アーティスツ・ユニオン」が結成
その2022年版において、3位にランクインしたのが「Unions(組合)」だった。
この背景には、コロナ禍によって浮き彫りとなった美術館業界の労働環境問題がある。昨年、アメリカ全土の美術機関では労組結成の動きが広がりを見せ、労働環境改善を訴える声が相次いだ。こうした世界情勢のなか、日本の美術業界でも画期的な動きが生まれた。プレカリアートユニオン
アーティスト支部内に結成された、日本初の現代美術家のための労働組合「アーティスツ・ユニオン」だ。
ユニオンのメンバーは2月24日時点で、村上華子
(支部長)、湊茉莉(副支部長)、川久保ジョイ(支部書記長)、加藤翼、飯山由貴、寺田衣里、宮川知宙、藤井光、山本高之、白川昌生の10名。
アーティスツ・ユニオンは、アーティストがこれまで置かれてきた労働状況について、その権利が軽視されてきたとしており、「アーティストの立場の弱さは、不当な搾取やハラスメントの温床となるとともに、多くのアーティストの貧困状況を生み出してきた」と訴える。
ユニオンでは「これまで美術業界において当然とされてきた慣習の変革」を目指すとしており、適切な報酬の支払いや書面での労働契約、アーティストとしての労災申請、ハラスメントのない環境での仕事など、「労働者としての当然の権利」の行使を求めていくという。
特筆すべきはガイドラインの策定だ。美術業界では暗黙の了解のもと、様々な仕事が進められることが多い。ユニオンでは「アーティストの報酬ガイドライン」「アーティストの倫理ガイドライン」「アーティストの労災ガイドライ
ン」の策定を進め、その遵守を求める運動を行うとともに、文化行政や文化政策の意思決定にアーティストが主体的に関わることも求めていくとしている。
また、「あいちトリエンナーレ2019」以降、各所で問題視されている作品への検閲に抵抗し、アーティストが自らの労働環境と作品を守るための助け合いの組織として、様々なキャンペーンを実施することも明らかにしている。
ユニオンメンバーの村上華子は近年、⽇本において作品を発表する際、「報酬がない、あるいは不当に少ない」という状況に遭遇したという。また川久保ジョイも、ある日本の展覧会に参加した際、展覧会総予算が9000万円であるにもかかわらず、参加アーティストには作品借用費として5万円ずつが支払われたのみで、「アーティストフィー」はゼロだったと話す。
村上はこうした状況について、「適正報酬がないことにより⽣じる権⼒のアンバランスがハラスメントの温床となってきた」としつつ、個人では難しい組織との交渉も、ユニオン結成によって可能になると期待を寄せる。
美術界は独自のルールがまかり通る非常に狭い世界と言える。今回、このアーティスツ・ユニオンが結成さたことで、これまで見過ごされてきた部分に光が当てられた。ユニオンが掲げる慣習の変革は、美術業界が全体で足並みを揃えて取り組んでいく必要があるだろう。