炎上した木村伊兵衛賞受賞から15年 ジオラマ風写真の名手・本城直季の「その後」〈dot.〉
実際の風景をミニチュアのジオラマのように写す作風で知られる本城直季さん。
2006年、写真集『small planet』(リトルモア)でデビューすると、現実と虚構の合間を覗き込むような面白さが注目され、話題となった。
ところが翌年、本城さんがこの作品で木村伊兵衛写真賞を受賞すると、写真界はにわかに騒がしくなる。
「ふつうの人の目には斬新に映っても、こんな写真技法は昔からある」「ほかの写真家の作品のパクリじゃないか?」。辛辣な声が次々と上がり、受賞のニュースは瞬く間に炎上した。
しかし、同賞の選考委員たちにとって、そんな批判は想定内だったようで、新聞発表後に発売された「アサヒカメラ」(07年4月号)に、こう書いている。
<本城直季については「マーク・レイダーのパクリじゃないか」みたいな批判が当然出てくるだろう。大判カメラのアオリ機能を逆用するテクニックは、すでに先人がたくさんいるし、いまやフォトショップでもそっくりの画像が簡単に作れる>(都築響一さん)
<一躍表舞台に躍り出た彼の周辺には雑音が多い。ネットではパクリ情報が流され、いっぱしの評論家が「面白がってやっている」などと貧相極まりない注釈をつけ、最近のお笑い芸人同様たぶん一発芸で終わるなどと自滅を期待する向きすらある>(藤原新也さん)
■ジオラマよりも自分が住む世界への興味
あの騒動から15年。いまでは「ミニチュア/ジオラマふう写真」はすっかりおなじみのものとなった。インターネット上には撮影方法の詳しい解説記事が掲載されているし、そんな面倒なことをしなくてもスマホのアプリを使えば、誰でも簡単にそれっぽい写真がつくれる時代になった。
で、当の本城さんは、というと、そんな時代の変化をまったく意に介さず、いまも同じ手法でコツコツと作品をつくり続けている。
実は、これまであまり語られてこなかったことだが、本城さん自身は「それほどジオラマに対して強い思い入れがあるわけではなくて」と、打ち明ける。
「それよりもぼくは、自分たちが住んでいる世界、特に街にすごく興味があるんです。その興味の表れとして作品をずっと撮り続けてきた」