美村里江のミゴコロ ハンサムなあの人
しかし、有名な人物やチームに目を向けなかった分の時間、私にも夢中になってきたものがある。なかでも「贔屓の樹木」は都内に何本もあり、近くを通り掛かるたびに挨拶(?)へ寄り、枝ぶりや葉の艶を見て、元気に成長しているとホッとする。
公園や神社の木であれば近づいて触ることもかなうが、個人宅の樹木の場合、立ち止まってじっと見つめるわけにもいかない。なるべくゆっくり歩きながら、または車の窓を開け、通過する瞬間を目に焼き付ける。
5月になると特に会いたくなるのは、東京都内のとある邸宅のヤマボウシだ。近隣から引っ越してもう何年にもなるが、長らく私のお気に入りである。建物に面した乗用車3台が余裕で止められる石畳の駐車場。その一角に、他の植物とは離れてすっくと1本立ち、いかにもシンボルツリーとして見事にその家の顔になっている。
このお宅では庭師の方もよく見かけ、剪定(せんてい)が素晴らしい。高さは2メートルちょっとだが、他の場所で見る同サイズのヤマボウシより、ぎゅっと密度が高いような印象。健康的な清涼感があり、眺めていると健やかに育った青年のように感じられ、「ハンサムだなあ」とほほ笑んでしまう。
今の時期から6月頃は、手裏剣型の白い総苞(そうほう)(花びらに見える葉が変化したもの)に覆われた姿がまぶしい。穏やかな赤みの丸い実もかわいらしく、熟すと生食できると聞いてずっと気になっている。紅葉もいい。落葉高木として四季折々の美しさがあり、通り掛かるたびにすがすがしい気持ちにさせてくれる。
今は家が遠くなってしまったので、3カ月おきにしか見られない。歯科医の定期検診に通う際、少し遠回りして前を通るようにしているのだ。次回の逢瀬(おうせ)、いや詣でが楽しみである。
ちなみに、開花時に葉が伴えばヤマボウシ、花だけならハナミズキだ。こんな違いを知るのも楽しい。