日本のアート振興の中核に 国立アートリサーチセンター設立
NCARは、独立行政法人国立美術館に属する7つの国立館(東京国立近代美術館、国立西洋美術館、京都国立近代美術館、国立国際美術館、国立新美術館、国立映画アーカイブ、国立工芸館)をつなぐ組織として、法人本部に26人体制で設置された。単独館ではできない事業に取り組み、ナショナルセンターとして機能強化を図るのが目的。センター長は、森美術館館長で国際事情に詳しい片岡真実氏が兼務する。
■存在感低下を危惧
背景には日本のアートおよび美術館の、世界における相対的地位の低下がある。日本は地方自治体ごとにミュージアムがあるなど美術館政策で他のアジア諸国に先行していたが、この30年間で世界のアート勢力図は大きく変わった。
先月行われた設立会見で、片岡センター長は「多文化主義やグローバル化が進行し、欧米中心ではなく、世界の各地域が自分たちの歴史や文化を発信するようになった」と説明。アジアを見渡すと、中国やシンガポールなど各国が美術館を建設し、芸術祭やアートフェアなどを通じて積極的に海外発信を行う中、日本は経済の低迷もあり「同じことを続けてきて、プレゼンスが低くなった」と指摘した。
言葉の壁も大きい。海外の研究者らが日本の美術情報に接するのは難しく、国内にある作品のデータベース化も遅れていた。状況を改善するため、国は平成30年度から5年間、「文化庁アートプラットフォーム事業」を展開し、一つの取り組みとしてバイリンガルのデータベース「全国美術館収蔵品サーチ(SHŪZŌ)」を構築。NCARの設立は、経済効果も視野に日本のアートの評価向上を目指す、国の方針に沿ったものだ。片岡センター長は「美術館には歴史もコレクションもある。が、既存の機能や情報の集約は国でしかできない。国が重い腰を上げて、センターを設立したことは非常に意味がある」と語った。
■健康増進に活用も
NCARの活動は①美術館コレクションの活用促進②情報資源の集約・発信③海外発信と国際ネットワークの構築④ラーニングの充実-の4つの柱で進める。令和5年度予算は8・5億円。
最も具体的に進んでいるのは、情報資源の集約・発信だろう。文化庁アートプラットフォーム事業からデータベース「SHŪZŌ」を継承・拡充しており、現在、国内163館の16万件を公開。加えて、国内アーティストの情報データベースも今秋公開に向け準備中という。
海外で展示を行う作家の支援、国際シンポジウムの開催などにも積極的に取り組む意向。「日本のアートがグローバルな視野でどう位置付けられるのか、俯瞰(ふかん)的視点は大切」と片岡センター長。同時に、国内美術館や研究機関、市民とのつながりも深めたいという。
具体的には、各地の美術館と連携し、国立美術館の所蔵作品を活用した展覧会を協働で企画したり、作品の保存修復のための情報集約と共有を推進する。またラーニングでは従来の教育普及の範疇(はんちゅう)を超え、認知症患者向けの鑑賞デジタルツールの開発を検討するなど、美術を人々の健康・幸福に役立てる事業を、医療の専門家らと連携して進める見込みだ。