世界で最も美しいハンドメイド絵本。谷川俊太郎氏の珠玉のことばで届ける、タラブックスの『しっぽばなし』
ふんわりとした温かい手触りの紙、絵本を開くたびに立ちのぼるインクの香り……。『しっぽばなし』のページをめくると、インド民俗の独特な力強い絵が、鮮やかな色彩と共に、目に飛び込んできます。
タラブックスは、インドのチェンナイにある小さな出版社。インド少数先住民族に古くから伝わる芸術を、一冊一冊手作りで美術品のような絵本にし、世界に届けてきました。紙を漉き、染め、一色ずつシルク印刷を施し、最後は丁寧に手作業で製本していきます。オールハンドメイドの絵本は、数々の賞を受賞し、世界中のファンを魅了し続けています。
この世の宝のような美しい本を創り出す――タラブックスにとって、この事業そのものが、「よりよい社会を作る」社会運動です。
これまでインドでは顧みられることのなかった民俗画に光を当て、代々壁に描かれ、口伝えで受け継がれた話を絵本の形にしました。そして、少数民族や伝統工芸の職人など、インドにおける社会的に弱い立場にある人と対等な関係を築き、働く場を整えます。
本づくりの工場の人々が心地よく誇りをもって働けるよう、環境づくりに心を配り、必要に応じて教育の援助をし、まるでひとつの大きな家族のような出版社を作りあげているのです。
タラブックスの絵本には、美しさだけでなく、のびやかでフェアな働き方、社会の在り方を問いかける力強い精神が宿っています。
「タラブックスは、アートとクラフトを融合していると思ったの」
今回、『しっぽばなし』の翻訳を手がけた谷川俊太郎氏は、そこが他のメッセージ絵本と違うところだと、タラブックスの絵本の魅力を語ります。
「僕は、絵本をクラフトにするのに賛成なの。クラフト、つまり“手仕事”を大切にしているのだよね」
今、社会が「頭でっかちになってしまっているから……」と、人の「手」を感じる絵本の大切さを指摘します。
谷川俊太郎氏のことばは、リズミカルで、口にするのが心地よく、読むたびごとに新しい発見を読み手に与えてくれます。これまでタラブックス絵本と出会っていなかった子どもたちにも届けたい絵本になりました。
『しっぽばなし』は、ちいさなねこが主人公。自分のしっぽが気に入らないねこは、しっぽ探しの旅に出ます。さまざまなしっぽとの出会いは、社会との出会いでもあり、自分自身との対話でもあるようです。
『しっぽばなし』の裏表紙にはシリアルナンバーが刻まれています。1冊1冊が世界でただひとつの絵本。かけがえのないすべての人の手に届くことを願います。