「ゴ・エ・ミヨ」ベストパティシエ賞を受賞した加藤峰子さんが、見惚れるほど美しいデザートに込めるメッセージとは。
今年3月に発表された、パリ生まれのレストランガイド『ゴ・エ・ミヨ』2022年度版で、ベストパティシエ賞に輝いた加藤峰子さん。創刊50周年を迎えたパリ生まれの『ゴ・エ・ミヨ』は、各国の食文化とその土地の持つ地域性(テロワール)を丁寧に掘り下げ、食の“今”を伝えるレストランガイド。
才能あるシェフを見出す先見性でも知られ、この賞も独創性と個性に秀で、かつコース料理の締めくくりにふさわしいレストランデザートを創るパティシエに贈られるという、栄誉ある賞だ。加藤さんは銀座のイノベーティブイタリアン〈FARO〉のシェフパティシエとして、オープンから約3年半、素材への愛情から生まれる美しさと驚きに満ちたデザートで、多くの注目を集めてきた。
加藤さんが腕を振るう舞台は、イノベーティブなイタリアンで人気を博す〈FARO〉。2018年10月、東京銀座資生堂ビルのイタリア料理店〈ファロ資生堂〉が料理も内装も一新。加藤さんは、約20年にわたりイタリアで活躍してきたエグゼクティブシェフの能田耕太郎さんとともに、この新生〈FARO〉のガストロノミーを構築してきた。
「灯台」を意味する店名から海をイメージした店内は、ブルーのグラデーションで染め上げた和紙が壁や天井に配され、食器やカトラリーも日本各地の伝統工芸職人と協働したオリジナルを揃える。現代イタリア料理に日本の豊かな食文化を重ね合わせ、各地の生産者から届く食材で“日本だからこそできるイタリアン”を世界に発信している。
加藤さんのパティシエとしての経歴は、とても異色で華やかだ。両親の仕事から学生時代をイタリアで過ごし、大学卒業後はファッション誌『ヴォーグ・イタリア』に就職するも、子供の頃から大好きだった食の世界への情熱を再認識し、1年ほどで退職。「学生の頃やヴォーグ時代も、ストレスが溜まると“(粉を)捏ねたり練ったりして”発散していた」という彼女は、通っていたケーキ店に自身が焼いたお菓子を持ってプレゼンし、菓子職人の道を切り拓く。
しかし、作業の効率化のためスポンジやクリームを冷凍して作っていく工程に違和感を感じ、自分の方向性を模索し始める。「もっと素材に向き合いたいという気持ちが生まれてきて、レストランデザートの世界に惹かれていきました」。
ケーキ作りから2年後、〈ブルガリ・ホテルズ&リゾーツ〉を皮切りに〈アルマーニ・ノブ・ミラノ〉〈オステリア・フランチェスカーナ〉〈エノテカ・ピンキオーリ〉など名だたるレストランでペストリーシェフの経験を積む。こうした最高峰のガストロノミーの世界で、加藤さんが一貫して伝え続けてきたのは、作り手への思いと地球環境へのメッセージだ。