問題続きだった国家的祭典を再起動。川田十夢がARで実現する、すべての人が参加できる「祭」
この祭典は、ふたつの実験的な試みを作品に昇華したものである。
ひとつは、AR三兄弟が開発したアプリ、その名も『社会実験』を利用することで、AR(拡張現実)空間にバーチャルの「祭」を立ち上げるというデジタルパフォーマンス。
もうひとつは、その祭のなかで披露される踊りや伝統芸能などの身体の動きを3Dモーションキャプチャーし、デジタルアーカイブとして保存、しかもデータは誰でも購入可能、という試み。アプリ『社会実験』のダウンロードと、アプリで体験できるデジタルパフォーマンスのデモ映像の視聴、3Dモーションデータの購入は、すべてオンライン劇場「THEATRE for ALL」のサイトからアクセスできる。
AR三兄弟のTwitterでは「これは人間讃歌であり、拡張現実の裾野を拡げようとするものです」というテキストとともに、予告編の映像が公開されている。
祭典に参加した出演者は、お笑いコンビ・男性ブランコの浦井のりひろと平井まさあき、ダンサーのアオイヤマダ、八百万の神・加勢鳥、プロスケートボーダーの西矢椛、パラアスリートの前川楓、太鼓芸能集団・鼓童の前田順康、大駱駝艦の村松卓矢。そして、祭を彩る全体の音楽は蓮沼執太が担当している。このキャスティングの意図は、演芸もダンスもスポーツも、民俗行事も音楽も、ARというテクノロジーによって拡張現実的に融合させ、新しい文化を創出することにある。
開幕にあたり、総合演出の川田十夢が発表した宣言文を以下に引用する。
「ご覧になっているあなたへ
冒頭から個人的な思いを打ち明けますが、
オリンピックは開幕しなかった、と僕は思っている。
そう、まだ何も開幕していない。
この国で文化的に結果を出した人たちが、総力をあげて祭の準備をしていたけれど、謎の力で一人また一人とその舞台から消えて行った。そして、世界を襲ったウイルスもやってきて、アンチクライマックス的にその日を迎え、時間だけが流れ、いま私たちに残ったのは空虚な敗北感だ。
本当は、スポーツも文化も、何もかも、全ての領域の人が参加できる祭であるべきだった。参加のハードルが高いものなんて祭じゃない。分け隔てなく、全部もれなく開幕するべきだった。
いまこの時点で最高の身体の記録を残し、オリンピックとパラリンピック、スポーツと芸術、エンターテインメントとアングラ、音楽と非音楽が一体となる祭は可能だ。
僕は今回、いち開発者として、すべての壁を飛び越えてゆくイメージを拡張現実的に実装した。経験を宿した身体のデジタルアーカイブは未来への手紙でもある。
「VIRTUAL NIPPON COLOSSEUM」が、あなたの未来を考えるうえで、ひとつの材料になれば幸いです。」
- 川田十夢(AR三兄弟 長男 / 総合演出)
2021年の夏、パンデミック禍のなかで開催された『東京オリンピック2020』と、その式典をめぐって混乱と混迷を極めたさまざまな問題。宣言文で言語化されている通り、このプロジェクトは、それらの問題を強く意識したうえで動き出した。