「勝ち筋は明確」ビジネスとしての「サンクチュアリ」を製作者が語る
――お忙しいところをありがとうございます。
坂本和隆 Netflixコンテンツ部門バイス・プレジデント(以下、坂本):江口カン監督からお話は伺っています。よろしくお願いいたします。
――先日、日経ビジネス電子版で取り上げた「サンクチュアリ-聖域-」(以下、サンクチュアリ)の江口カン監督インタビューで、「この作品ができたのはプロデューサーの坂本さんの存在が大きい」と伺いました。予算があればできるわけじゃない、そのおカネを差配する人次第だ、と。
坂本:その辺をすごく丁寧にインタビューに答えていましたね。
――「サンクチュアリ」は大きな話題になっていますが、2年以上の時間と、俳優に映像ではお相撲さんに見えるだけの体作り、相撲の練習が必要、という、おカネを出す製作側にとっては、とてもレートの高い賭けだったのではと思います。プロジェクト全体を統括するプロデューサーとして、どこに勝機を見いだしていたのか。ビジネスパーソンの参考にもなるのではと思っておりまして、お聞かせいただけないでしょうか。
坂本:はい、まずビジネスですから、いくら面白そうでもプロジェクトとして勝ち筋がない企画に乗るわけにはいきません。当然、一つひとつの作品に適する予算があって、どれにでも、いくらでも、ということではない。そして、「サンクチュアリ」は大変なプロジェクトだということも最初から分かっていました。
――ですよね。でも、最初の打ち合わせで「やる」と決めたと。
坂本:はい、最初に江口さん、金沢さん(脚本家の金沢知樹さん)、そして江口さんとつないでくれた方、その4人で議論しまして、本当に1回目のミーティングで、「よし、決めよう、それでやろう」というところまでは動きましたね。その場で。
――その時点で、これは大変だぞと理解していらっしゃったわけですよね。
坂本:もちろん。そして大変なものだからこそ「どうなるんだろう、見てみたい」という衝動も生むじゃないですか。
――この難関を乗り越えたらどんなのができるんだ、と。
坂本:「どういうふうにやったんだろう、どういうものになるんだろう、どんな物語なんだろう」という興味、好奇心が、「この作品を見たい」という大きな動機につながるので、やっぱり「この打ち合わせで出た面白さを追求したい」という、強い気持ちが全員に生まれましたね。
――坂本さんはどの辺が面白いと思われたんでしょうか。
●「見たことがないものが見られそう」
坂本:まず、大相撲の裏側のドラマはありそうで今までなかった、というところ。学生相撲を含めて相撲自体を描いた作品はあったんですけれども、この題材のドラマというものが今までなかった。そしてこれからもそうそう生まれないだろうと。やっぱりそこへの期待感ですよね。見たことのないものが生まれそうだという期待です。
――見たことがないもの。
坂本:はい。「これは、今まで見たことないものができそうだ」というところへの思いが強かったですね。いまだかつて描かれてない素材や、映像表現がつくれるんじゃないか、と感じた、出合ったときが、一番、自分も仕事をしていてうれしい瞬間ではありますね。
――ちょっと戻りますけど、坂本さんが江口監督に着目したのはいつごろからなんですか。
坂本:江口さんを紹介してくれた方が僕に江口監督の映画デビュー作の「ガチ星」を持ってきてくれたんです。「坂本さん、この『ガチ星』、ちょっと見てよ、すごく面白い方がいるんですよ」ということで、すぐ見て、「あ、これはいいな」と、すぐに会いたいとご紹介をお願いしました。
――江口さん監督、金沢さん脚本の、プロ野球をクビになって競輪選手になる男が主人公の映画ですね。
坂本:「ガチ星」は、熱狂的なキャラクターを生み出すことで、熱量がものすごかったんです。演出も、映像も、脚本も。「ここにまた違う世界観を入れたらどうなるのか」と、とても単純にわくわくしてお声がけしました。「ガチ星」は大きかったですね。
――そして今回は大相撲だと。
坂本:もちろん題材の難しさはありますが、きっちりとした制作環境で、江口さん、金沢さんのクリエイティブビジョンを最大化できたら面白いことが生まれそうだというのが楽しみで。監督と脚本家の化学反応というか、そこにすごくわくわくしてました。
――ただ、「売れる作品」として考えると、普通は著名俳優、有名原作といった、いわゆる「数字が取れる」要素が必須だと思いますが、今回はすごい俳優さんたちが脇役にはいますけれど、主役はまだ無名で。お相撲さんを知っている人は日本人ほぼ全員だけど、相撲が好きな人は日本人全員かといったら全然そんなことはない。そして、原作もないオリジナルストーリーで。
坂本:普通だとなかなか触らない企画ですよね。