【今週見るべき展示会】森山大道の50年の『記録』を回顧する
写真家・森山大道が「電気、水道、ガスと同じで、なくてはならないもの」と語る一連のプロジェクトがある。1972年に森山が創刊した私家版写真誌『記録』だ。曰く「日常で撮ったものをすぐに焼いて、近くの⼈たちに⼿渡しで⾒せるという最⼩限のメディア」を模索するなかではじめた写真誌で、特徴は、写真集のように撮り溜めたものを選び、まとめ上げるのではなく、撮ったものを片っ端から恣意的にプリントし、すべて1冊のなかに入れてしまうスタイル。73年にオイルショックの煽りを受けて休刊を余儀なくされるが、2006年に復刊し、以降、現在も継続的に発行されてきた、森山のライフワークでもある。
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『記録』の表紙。長年、森山の仕事を支えきたAKIO NAGASAWA GALLERYの長澤章生が声をかけたのをきっかけに2006年に復刊。現在、第50号までが出版されている
街に出て、歩き、見て、撮る。その繰り返しーー自身が“シンプルな日々”と語る毎日のなかで、世界に衝撃を与えるスナップ写真を生み出してきた森山。たびたび彼はこの『記録』について、カメラマンとしての「ライフライン」「根拠地」と語ってきた。仕事の撮影に追われる日々に押し流されそうな危機感を覚えたとき、制約もなく、自由で直感的に写真(あるいは日常)に向き合える『記録』が、「気持ちの大きな支え」として存在し、自分自身を見つめ直すためのプロジェクトとしても機能していたということだ。見る側にとっても、それは森山の写真家としての生々しい直観、本当の日常のようなものを目の当たりにできる、他にはないシリーズだと言えるだろう。
今年は、創刊から50年、偶然にも第50号がリリースされた『記録』の記念的な年。それを祝して、AKIO NAGASAWA GALLERYでは、銀座と青山の2つのペースで、それぞれ『記録』にフォーカスした展覧会が行われている。銀座のスペースでは、『記録』の50号ぶんの全カットをギャラリーの壁面全体にスライド形式でランダムに投影。それぞれのカットが撮影された時間や場所を超えて隣り合い、響き合い、写真誌とはまた違う『記録』のすがたを鑑賞者に体験させる。
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AKIO NAGASAWA GALLERY GINZAでの展示風景