ロシアのウクライナ侵攻で懸念される文化遺産の行方。現地博物館の状況は?
ICOMは声明文で、「この紛争はすでに深い苦痛を与えており、許容できないほどの人命が失われる可能性がある」としつつ、迅速な停戦、交戦国間の即時調停、博物館の職員の安全確保と文化遺産保護のための協調努力を要請。「このような紛争と不確実性の時代において、ICOMは、この不確実性がウクライナのICOM会員、博物館職員、文化遺産の安全と安心に与える影響についても深い懸念を表明しなければならない」と強調している。
ICOMは、ICOM全会員に対して自らの安全確保を前提に、ICOMの博物館倫理綱領に基づき、博物館とコレクションの確実な保護を呼びかけ。また一般市民に対しても「地域社会における教育、学習、娯楽の重要な拠点として、地域社会にとって重要な参照点である博物館が、地域社会によって支援されることが重要だ」とし、可能な限りの支援を求めている。
さらにICOMは、紛争地域からの文化財の密輸が増加する可能性があることに警戒するよう、すべての関係者に警告。この地域のすべての国家政府に対して、文化財の不法な輸入・輸出に関するUNESCOやUNIDROIT(私法統一国際協会)の条約に基づく文化遺産保護の義務に注意するよう促している。
ICOMは、「この地域の国際的なパートナーや関係者と緊密に連携し、状況の推移を監視している」とし、「ウクライナの文化遺産が今後直面する可能性のあるあらゆる脅威を軽減するために、できる限りの支援を提供し続ける」と約束している。
コレクションを守るために「できる限りのことをする」
ウクライナには、ウクライナ芸術に特化したウクライナ国立美術館や、ヨーロッパの彫刻や装飾美術、中国、日本の美術品・工芸品を数多く収蔵している国立ボフダン・ハネンコ/バーバラ・ハネンコ記念美術館、古代から現在までのウクライナの歴史を紹介する国立ウクライナ歴史博物館など、数多くの博物館・美術館がある。
ニューヨーク・タイムズ
によると、ロシアによる侵攻を懸念し、同国の博物館のあいだではコレクションの保護が数週間前から進められていたが、戦闘が都市部におよんだ場合、ウクライナの歴史や文化に関する施設が攻撃を受けることを危惧する声もあったという。
ウクライナの国立博物館は、コレクションを建物から運び出すのに政府の許可と多くの手続きが必要であり、自由博物館の館長であるイホル・ポシヴァイロは侵攻開始後、博物館の収蔵品をキエフから避難させようと考えていたが、すでに道路は逃げるウクライナ人で渋滞しており、不可能だったという。
第二次世界大戦中のウクライナ歴史に関する品々を収蔵する大祖国戦争博物館の館長であるユーリ・サヴチュクは、キエフのランドマークである「祖国記念碑」の下に建つ同館は、ロケット攻撃の標的になる可能性があるため、侵攻開始から12時間にわたってスタッフとともに同館のもっとも重要な展示物を安全な場所に移動させた、とニューヨーク・タイムズに対して語っている。
また、ロシア軍が上陸したウクライナ南部のオデッサ市にあるオデッサ美術館は昨日より閉館しており、同館館長アレクサンドラ・コヴァルチュクは、警備や有刺鉄線を手配した地下に美術品を隠すなど、コレクションを守るために「できる限りのことをしている」としている。