古民家の魅力、古典的写真技法で発信 丹波篠山へ移住の写真家
撮影するのは、ニューヨークなどで活躍し、同市に移住したフォトグラファー、栗田紘一郎さん(79)。撮影期間は5年と想定し、作品発表も地域で行う予定。感光紙が劣化するため、片道約30分圏内でしか撮影できないといい、栗田さんは「この地にいるからこそ可能なプロジェクトになる」と意気込む。
栗田さんは、東京で広告写真家として活動した後、1990年に渡米。約30年間、ニューヨークを中心に活動してきた。自然の中での生活をつづった「ウォールデン 森の生活」などの著作で知られる思想家、ヘンリー・デビッド・ソローに影響を受け、身近な自然の写真をプラチナプリントなどの古典的な方法で制作。作品は、日本だけでなく、欧米の美術館やギャラリーでも展示され、ニューヨーク・タイムズに作品の紹介記事が掲載された。2019年に帰国し、ギャラリーを構える場所を探していたところ、丹波篠山市に出会い、移住。古民家が建ち並ぶ宿場町、福住に20年10月、ギャラリー「FOTOZUMI」を構えた。
栗田さんは「里山など、日常に自然があり、伝統的建造物や焼き物などの伝統文化が共存している」と丹波篠山の魅力を表現する。
「ここで撮れるものは何だろう」と考える中で出会ったのが、古民家や蔵など同市に残る江戸時代や明治以後の歴史的な建物。撮影に使う「カロタイプ」は1841年にイギリスの科学者、ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボットが発明したもので、建物と「同年代」。写真技術は進歩を続け、現代では、鮮明な写真を素早く撮ることができるが、カロタイプは感光紙や印画紙を手作りし、10~20分も露光するなど、手間ひまがかかる。その過程は、丹波篠山に残る昔ながらの家や、そこで守り伝えられてきた農や暮らしとどこか重なる。栗田さんは「便利で手っ取り早いものも良いが、現代は、自分たちで考え、手を使って作り、実感する感覚が退化しているのでは。プロジェクトはそういうことへの抵抗だ」と話す。
プロジェクトの本格始動を記念し、ギャラリー「FOTOZUMI」で5月29日まで、栗田さんがカロタイプを使って撮影した作品を展示する。月・火曜日休廊。入場無料。5月7日午後2時からギャラリートーク、同21日にはカロタイプデモンストレーション(要予約)がある。問い合わせは同ギャラリー([email protected])。
【幸長由子】