コスプレ×文化財=? 「地味な場所も映える」撮影の新スポットに
◇国の登録文化財
「やなせ宿って、どこ?」「何をする場所?」。名張市の旧市街地・旧町に建つ、旧細川家住宅(名張市新町)。かつては薬を扱う商家で、明治前期に建てられた主屋などは国登録有形文化財だ。2005年に市に寄贈され、08年からは観光交流施設「旧細川邸やなせ宿」として使われているが、地元でも利用実態などを知らない人は少なくない。
市によると、2022年度の来館者は1万6997人。この10年間では15年度の2万6420人が最多で、減少傾向が続く。来館者数には、年一回の「やなせ祭り」などの催しや、抹茶などの3教室の利用者を含むため、普段、観光で訪れる人は少ない。江戸以降の町並みが残る旧町全体も同様だ。
市都市計画室は「やなせ宿を起点に、文化財を生かしてまちを盛り上げたい」と、22年に市や地域団体、研究者ら十数人でつくるグループを設立。年4回程度の会議の中で、メンバーから、「コスプレ撮影をしたい人と、彼らを迎えたい場所を結ぶインターネットのサイトに登録してみては」との提案があり、市がコスプレ希望者を迎える準備に着手した。
◇アコロケ登録へ
登録先のサイトは「アコロケ」。コスプレ撮影地の検索・予約を手がける。運営会社「ハコスタ」(大阪市)によると、登録地の大半は個人、企業が運営し、自治体が関わる登録地は少ない。担当者は「コスプレを楽しむ文化が認めてもらえるようで、うれしい」と歓迎する。
名張市と市教育委員会はまず、旧細川家住宅と、近くの名張藤堂家邸跡(名張市丸之内、県史跡)のアコロケ登録を目指す。撮影者を迎える際は、手数料を除く利用料金が市の収入となる。旧細川家住宅の利用料金は、主屋和室や蔵など4カ所全てを使う場合は1日(8時間)で計2万5000円(名張市内在住者は半額)で、エアコン代なども必要。名張藤堂家邸跡は入館料として一般200円など。料金は今後、市条例の改正で対応することも検討する。
旧細川家住宅などでは26日、市が関わるものでは初のコスプレ撮影が行われた。人気漫画・アニメ「鬼滅の刃(やいば)」の主要登場人物、時透無一郎などの姿で登場したのは、津市出身で、東京都でフリーの特殊メーク・造形の仕事をしている李華曦(かえ)さん(30)。名張市に住む山門杏子さん(29)が撮影した。主屋の床の間や縁側に移動し、庭や蔵などを生かした写真を撮った。
◇「絵になる風景」
李さんは「歴史が題材のアニメがはやっており、コスプレーヤーが喜びそうな会場。三重に注目が集まり、若い人が文化財に触れる機会になるはず」。山門さんは「どこを撮っても絵になる風景。人が写り込むことで、さらに魅力的になる」と話した。
撮影に立ち会った市都市計画室の中村美香さん(27)は「床の間など地味な場所も『映えていた』。やなせ宿から旧町を巡り歩いてもらえたら」と期待する。コスプレ会場としてのPRに合わせて、やなせ宿のSNS(ネット交流サービス)も開設し、市内外の人に旧町の魅力を発信する計画という。