2021毎日デザイン賞、建築家の田根剛氏と染色家の柚木沙弥郎氏に決まる
田根氏はフランスのパリを拠点に活動する国際的な建築家だ。近代化やグローバル化によって埋もれてしまった歴史=「場所の記憶」を考古学的手法で徹底的に調べ上げ、未来へと継承する「Archaeology of the Future(未来への記憶)」をコンセプトにしている。代表作の「エストニア国立博物館」は、敷地がかつて旧ソ連の軍用滑走路だったことを意図的に表現した。
近年の「弘前れんが倉庫美術館」では、築100年のれんが倉庫を美術館にリノベーションするにあたり、れんが建築が日本の近代化における先進的取り組みだった「場所の記憶」を継承しようと試みた。
また、昨年は4代目となる「帝国ホテル」の建築家にも選ばれた。2代目を担ったフランク・ロイド・ライトによる本館を形容した「東洋の宝石」を継承するとしており、その手腕に期待が集まる。
一方、柚木氏は1922年生まれで、現在99歳。今も毎日、精力的に創作活動を行っているスーパークリエーターだ。
終戦後、洋画家だった父の郷里、岡山県倉敷市で大原美術館に勤務したことから運命が変わった。民芸運動をけん引する柳宗悦らと親交を持つようになり、型染め作家の芹沢銈介(せりざわ・けいすけ)に師事し、染色家となった。
布だけにとどまらず、版画、イラスト、本の装丁や人形の制作など幅広いジャンルに取り組み、国際的にも評価されてきた。デジタルや量産品にはない、染色による独特の模様と色彩の世界を時代は「新しい」と受け取った。
伝統に裏打ちされた確かな技術と自由な発想は、人々を魅了してやまない。大胆でユーモアをたたえた作品のファンは多く、展覧会はいつも盛況だ。
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たね・つよし 建築家。1979年東京都生まれ。2002年北海道東海大芸術工学部建築学科卒。03年デンマーク王立芸術アカデミー客員研究員、03~04年ヘニング・ラーセン・アーキテクツ勤務などを経て、06年パリでDGT.を設立。06年「エストニア国立博物館」国際コンペ最優秀賞(16年完成)、12年新国立競技場コンペ最終選考、17年Atelier Tsuyoshi Tane Architects(ATTA)をパリで設立。「弘前れんが倉庫美術館」(20年完成。21年フランス国際建築賞グランプリ受賞)など国内外の建築だけでなく展覧会の空間設計なども行う。
ゆのき・さみろう 染色家。1922年東京都生まれ。42年東京帝大文学部美学・美術史科入学、43年学徒動員。46年岡山県倉敷市の大原美術館に勤務。芹沢銈介に師事し、染色家に。 50年女子美術大専任講師、72年同大教授、87~91年学長を務める。受賞歴に、58年ベルギーのブリュッセル万国博覧会で型染型紙が銅賞、91年第1回宮沢賢治賞。国内の公立美術館のほか2014年にはフランス国立ギメ東洋美術館で展覧会を開催、多くの作品が収蔵された。21年PLAY! MUSEUM(東京都立川市)で開催した「柚木沙弥郎 life・LIFE展」には大勢が来場し好評を博した。絵本に「魔法のことば」「せんねんまんねん」など多数。
<選考委員>大貫卓也(アートディレクター)/岸和郎(建築家)/柴田文江(プロダクトデザイナー)/永井一史(アートディレクター)/保坂健二朗(滋賀県立美術館ディレクター)=敬称略