いま中高生はどんな本を読んでいるのか? 「エモい展開」から『人間失格』まで
中高生に人気の本を分析していくと、その設定やプロットにいくつかの「型」があることがわかる。その型のひとつが「自意識+どんでん返し+真情爆発」である。主人公が他者からの視線や評価を気にする「自意識」と、作劇上の「どんでん返し」、そして「真情(秘めたる想い、溜めに溜めた感情)が終盤で爆発」することがセットになっているものだ。
たとえば住野よる作品や西尾維新の〈物語〉シリーズ、必ずしもこの類型に完全に合致するわけではないが似たものとしては、太宰治『人間失格』や、学校での居場所をなくして閉じこもっていた主人公が、部屋の鏡をくぐり抜けた先の城で似た境遇の6人と出会うというファンタジー青春ミステリー小説・辻村深月『かがみの孤城』などがある。
ここでは2010年代後半以降、中高生にもっとも支持されている作家と言える住野よるの作品を例に、人気の理由を考えてみよう。
学校読書調査や「『朝の読書』で読まれた本」を見ると、住野の作品は2016年調査にデビュー作の『君の膵臓をたべたい』(『キミスイ』、双葉社)がランクインし(本の発売は2015年6月)、同作は2017年7月に実写映画が公開、2018年9月にアニメ映画が公開されて以降も、ずっと人気が続いている。最新の2022年の学校読書調査でも、『キミスイ』のみならず、映像化されていない『また、同じ夢を見ていた』(双葉社)『か「」く「」し「」ご「」と「』(新潮社)『よるのばけもの』(双葉社)もランキング上位にある。つまり「映像化の影響で作品が読まれている」というより、作品自体のもつ魅力に中高生が惹かれて読まれていると見たほうがいい。
中高生が好む本を並べて見ると、彼らが本に求める3つのニーズが浮かび上がってくる。(1)喜び、悲しみなど「正負両方に感情を揺さぶる」こと、(2)10代の読者が抱えているモヤモヤやイライラを登場人物が代弁する「思春期の自意識、反抗心、本音に訴える」こと、そして(3)ストーリーラインが複雑すぎず、カバーやタイトルで物語の傾向がつかみやすい「読む前から得られる感情がわかり、読みやすい」ことである。この三大ニーズに引きつけて住野作品を整理すると、以下のようになる。