「まだびっくりしています」第167回芥川賞の高瀬隼子さん会見(全文)
司会:それでは高瀬さん、今のお気持ちからお願いいたします。
高瀬:はい。とてもうれしいです。うれしいんですけど、なんでしょう、ここに来るまで全然実感が湧かなくて、行きのタクシーで、担当編集者の方と来たんですけど、うそかもしれないって言いながら来ました。まだびっくりしています。
司会:よろしいですか。
高瀬:はい。
司会:それでは質疑応答に移ります。ご質問のある方は挙手をお願いします。指名されましたら前方のマイクスタンドまでお越しになり、ご所属とお名前をおっしゃってからご質問ください。では真ん中、前から2番目の眼鏡の方、どうぞ。
読売新聞:読売新聞の武田と申します。このたびは受賞おめでとうございます。
高瀬:ありがとうございます。
読売新聞:まず、受賞されて最初にどなたに連絡を取られましたか。
高瀬:初めに夫に連絡を電話でしました。喜んでいました。
読売新聞:具体的にもしお連れ合いから掛けられた言葉があれば教えていただきたいんですけど。
高瀬:そうですね、受賞したよというふうに伝えたところ、良かったね、良かったね、良かったねと、ちょっと涙ぐむような声で喜んでくれていました。
読売新聞:分かりました、ありがとうございます。それと、先ほど講評の中で、人間のいい悪いではなく多面的なところが非常にうまく描かれているというふうに評されていたんですけれども、その点、選考委員の方の評について、どのような感想を今持たれましたでしょうか。
高瀬:実はまだ講評をいただいた内容を私が聞けていない状況なんですけども、多面的というふうに言っていただいたことについて、私自身も他者と、仕事だけじゃなく、いろいろな場で関わっているときに、本当に他人の、他者の考えていることって、まったく分からないなというふうに思いますので、この人はこういう人だというふうに自分で思っていても違う面が必ずあると思っていますので、そういうところがもし書けていたのであれば、評価いただいてうれしいです。
読売新聞:分かりました。あと、作品の内容が職場ということで、仕事の中で悩んでいる方も、この作品にこれから注目して読まれると思うんですけれども、今日も事前の取材で有休を取ってこられるということでしたが、職場の環境が、世の中、今少しずつ改善されている時代だと思いますけれども、何かそういう時代に小説が少しでも果たせる役割というものを感じていらっしゃったら伺いたいですが。
高瀬:私自身、今、社会人になって勤め始めて10年と少しなんですけれども、自分が働き始めた10年前と今現在だと、少し感覚が違っているな、いいほうに変わってきているなというふうには思うんですね。その中で小説が果たせる役割なのかは分からないんですが、それでもこんなつらいことがあるとか、こんなことが恐ろしかったりむかついたりするっていうことを小説の中ですくい取っていけたら、それを読んで受け取ってくださった方が、救われるまでいかなくても、何か考えてくださったりするのかなというふうには思います。