吉村順三が手がけた別荘で草木染めのデニムと出合う。
数々の名作、中でも別荘建築で印象的な作品を残した吉村順三が設計し、1977年に完成した別荘。伊豆の海近く、入江を見渡す絶好のロケーションだ。ここでデザイナーの佐原愛美が手がけるデニムブランド〈トゥ エ モン トレゾア〉の夏季限定のショップ「サマー・レジデンシー・ショップ『1977-』」が開かれている。絶妙な色合いのデニムを吉村建築で楽しめる機会だ。
会場となる別荘は元みかん畑だった高台に建つ300平方メートルの家。現在のオーナーが引き継いだ際、古くからの友人である佐原に改修について相談したのがきっかけとなり、今回のイベントが行われることになった。場所は熱海から車で20分ほどのところ。住宅地の中の坂道を上っていくと、芝生に囲まれた低層の別荘が現れる。イベント期間中は佐藤がデザインしたデニムなどのほかに、彼女がコーディネートしたル・コルビュジエらの家具も見ることができる。
海とは反対側にあるエントランスを入ると赤く塗られたキャビネットが出迎える。その先に進むとレンガの壁に暖炉が埋め込まれた、広々としたリビングが。サンルームから芝生ごしに海が見える。リビングの一部は吹き抜けになっていて、2階から見下ろせる。
2階の吹き抜けに面してソファが設えられた部屋があり、居心地のいい場所になっている。同じく2階にある海に面したバスルームは一面に青い小さなモザイクタイルが貼られていて、波の音が聞こえてきそうだ。
リノベーションにあたって佐原は「どこを改修したのかわからないようにしたいと思いました」という。実際に壁や外壁、天井など最小限の改修にとどめている。壁は一部、クロスを剥がして漆喰塗りとした。屋根の銅板はそのまま、建具などは磨いただけのものも多い。
時が経ち色が褪せていた絨毯は、山形緞通に依頼して竣工当時を想起させるような、より鮮やかなものに張り替えた。山形県山辺町の絨毯メーカー、山形緞通は吉村順三とは縁が深く、〈猪熊弦一郎邸〉(1971年)、〈嬉野温泉大正屋〉(1973年)などの建築でも絨毯を製作している。吉村が好んだ色のアーカイブもあり、それらも参考にしながら色を決めたという。