海外とくらべて少ない人数と予算……日本の美術館を取り巻く現実
『パリ・ルーブル美術館の秘密』『みんなのアムステルダム国立美術館へ』『プラド美術館 驚異のコレクション』……。美術館の舞台裏を撮影した作品はこれまでもありましたが、欧米の美術館ばかりでした。今回、日本を代表する美術館である上野の国立西洋美術館に1年半にもわたって密着したドキュメンタリー映画が誕生しました。
7月15日に公開される「わたしたちの国立西洋美術館 奇跡のコレクションの舞台裏」(105分)の製作・監督を務めた大墻敦(おおがき・あつし)さんが、国立西洋美術館の舞台裏から見えてくる「わたしたちの文化」について考えます。
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国立西洋美術館には若い頃から何度となく訪れています。松方コレクションを楽しみ、『バーンズ・コレクション展』『プラド美術館展』『大英博物館 古代ギリシャ展』では世界各地の至宝の数々を堪能し、『クラーナハ展』『シャセリオー展』『北斎とジャポニスム』では芸術文化に関する新たな知見を得ました。今回、私の人生にとって特別な場所で長期間にわたり内部を撮影する機会を得たことは幸運でした。
映画の舞台となった国立西洋美術館は、フランスの建築家ル・コルビュジエが本館と前庭を設計したことから、2016年に世界文化遺産に登録されましたが、そもそもは1959年フランス政府から日本へ寄贈返還された「松方コレクション」を所蔵公開する目的で建設され、モネ、ルノワール、ピカソ、ゴッホなどの名画を所蔵しています。
実は「松方コレクション」の全貌は未だに明らかになっていないことを今回初めて知りました。作品にまつわる詳細な情報収集とデータベース化が続けられ、欧米の美術館からの問い合わせに応える責務を担っていることに驚きました。また、絵画の移動作業、保存修復の様子などだけでなく、これまで撮影が許されていなかった学芸会議での白熱した議論や作品購入における厳密な審査過程からは、美術館の役割と責務について考えさせられました。
私自身は、松方コレクションのなかでも、ギュスターヴ・クールベの《波》、クロード・モネの《舟遊び》など水に関わる絵画が好きです。カンバス全体を青色、ばら色、緑色が鮮やかに覆い、戸外の光のなか川で舟遊びをする女性の姿とともに、水面に映る人影。この油彩絵画に心惹かれるのは、大学時代、ボート部の練習中に見た朝日に反射する水面、ブレードが水を掴んでできた山、夏の太陽にギラギラと熱を発する水面、飛び散る水しぶきなどの記憶と結びつくからかもしれません。
前庭の彫刻群にも心惹かれます。子どもの頃から親しみがあったのはフランスの彫刻家オーギュスト・ロダン作《考える人》でした。ポーズを真似しながら「何を考えているのだろうか」と考え、芸術の力が心に響いた少年時代の記憶が蘇りました。