受験最前線 本当に入りたい大学へ初志貫徹を 全入時代の心構え
令和6年度の大学入試は、いよいよ名実ともに「大学全入時代」が現実となる可能性が指摘されているが、大手予備校・河合塾で大阪校校舎長を務める我妻(あづま)正敏(まさとし)さんは「行ける大学より行きたい大学を選ぶ時代」と話す。
多くの受験生にとって手強い相手となるのは大学入学共通テストだ。4年度に大きく難化して波紋を広げたが、今春の5年度は一転して平均点が上昇するなど、難易度が不安定な面もある。ただ、いずれの年度も難関の国立大を中心に志望校を妥協せず強気でチャレンジする受験生が多く、我妻さんは「そうした初志貫徹組が良い結果を手にする傾向がみられる」と話す。
新学習指導要領に基づく大学入試が7年度に迫り、現行の指導要領による入試は来年が最後となる。そのため、浪人を避けたい思惑が強くはたらき、志願動向は全体として大きく安全志向に傾くとみられている。ただ、我妻さんは「新課程入試になるからといって、それまでの勉強が無駄になるわけではありません。経過措置もあるので、過度に浪人を恐れる必要はない」と指摘する。
全体の安全志向が強まれば、逆に上位の大学を目指すチャンスが広がる場合もありそうだ。
近年、学校推薦型選抜(推薦入試)や総合型選抜(AO入試)の定員が拡大している。受験人口の減少を背景に学生を確保したい大学側の意向もあるが、我妻さんは「安易に考えるのは危険」とくぎを刺す。面接や小論文など一般入試とは異なる対策が必要で、夏から秋にかけての貴重な時間を取られるリスクがあるからだ。
我妻さんは「ただ早く合格がほしいという気持ちで手を出して、第1志望の対策が疎かになるのは本末転倒です」と強調する。もちろん、本当に入りたい大学については大いに活用するメリットがある。
学部や学科ごとの志願動向としては、就職を意識した理系人気が続き、とりわけ医学部や歯学部、薬学部など資格系の分野で顕著だ。続々と新学部が設置されて注目を集めている情報系は、志願者が集中して難易度が急激に上昇しているところも多いという。
理系分野の場合、国公立大だけでなく私立大でも修士課程以上へ進学する学生が増えている。大学院まで見すえて志望校を検討する必要がありそうだ。
医学部をめぐっては近年、学費を下げる私立大が目立つ。関西医科大が今年、初年度の納入金を約570万円から約290万円に変更するなど、全国的に大幅な値下げが相次いでいる。学費の低い大学ほど難易度は高くなるのが一般的だ。
私立大については、キャンパスの移転に留意しておきたい。立命館大が来年、情報理工学部(滋賀県草津市)などを大阪いばらきキャンパスへ移転するほか、首都圏でも大学の都心回帰が進んでいる。
個別の大学では、大阪公立大の学費が大阪府民を対象に完全無償化される見通しであることも見逃せない。同大学は今年の入試で志願者が増加しており、来年はさらに人気が高まるとみられる。
保護者の時代とのギャップもある。我妻さんは「受験するのは親ではなく本人です。保護者のスタンスとしては、志望校の選択を含めて子供の意思を尊重しつつ、サポートに徹するのが望ましいでしょう」とアドバイス。そのうえで、「目先のトレンドはあくまで参考情報。本当に入りたい大学へ向けて初志貫徹してほしい」と受験生にエールを送った。
プロフィール
河合塾大阪校校舎長・我妻正敏(あづま・まさとし)
埼玉県の大宮校校舎長を経て、昨年10月から現職。長年にわたり第一線で受験生の指導に携わる。これまで指導したクラスは、東京大・京都大・大阪大・神戸大など幅広い。