不登校支援に「eスポーツ」 協調性と社会性を養うゲームの力
■「一緒にゲームを」
「そこ、いける!」「オッケー倒した!」
東京都千代田区にあるeスポーツ施設の一角に、元気な声が響く。シューティングゲーム「ヴァロラント」をプレーする5人は元不登校の児童や生徒だ。
5人は、フリースクールの運営や復学の支援などを行うNPO法人「高卒支援会」(事務局・東京都新宿区)のeスポーツ部員。月に数回のペースで集まって練習に励んでいる。
部員の1人で中学3年の斎藤進さん(仮名)は昨年夏、同級生からのいじめが原因で学校に行くのをやめた。両親からの相談で自宅を訪れた同会のスタッフに誘われ、eスポーツ部の活動を見学。不登校の経験を持つ同世代の子供たちが楽しんでいる様子を見て入部を決めた。
「スタッフが『学校に行こう』と押し付けるのではなく、『一緒にゲームをしよう』と声をかけてくれたので活動に興味が湧いた」と斎藤さん。今は在籍校で出席扱いになる同会のフリースクールで授業を受け、中学卒業後は通信制高校に進学する予定だ。
■チームプレーが鍵
同会ではeスポーツ部を昨年1月に新設したばかりだが、斎藤さんのように、部活動をきっかけにして8人の子供が学校やフリースクールへ再び通い出すようになったという。
同会の竹村聡志(さとし)理事長(34)はeスポーツのメリットとして、1人で遊ぶことが多い家庭用ゲームとは異なり、チームプレーが求められる点を挙げる。部員同士で戦略を練り、練習を重ねて勝利を目指すことで、協調性や社会性が養われるわけだ。その過程は体育会系や文化系の部活動と何ら変わりはない。
竹村さんは「面と向かって会話をすることが苦手な子でも、ゲームを介せば楽しそうに話せる子は多い。外の世界に友達ができれば一緒に遊ぼうと外に出られる。eスポーツはそのきっかけになる」と話す。
■自治体にも活用広がる
eスポーツを活用した子供たちへの支援は自治体にも広がる。大阪府東大阪市は昨年9月、一般社団法人全日本青少年eスポーツ協会(Gameic)と引きこもり支援に関する協定を締結した。
市が引きこもりに悩む本人や保護者から相談を受けた際、了解を得たうえで協会に連絡。協会の担当者が本人と一緒にオンラインでゲームをプレーしたり、悩みや進路の相談に乗ったりするという。
大阪市北区は子供たちへのキャリア教育に活用しようと、今年8月に区内の「大阪アニメ・声優&eスポーツ専門学校」でeスポーツのイベントを開催した。eスポーツ関連のコースがある同校のオープンキャンパスとしての意味合いもあり、当日は100人以上が参加。会場では親子連れの姿も目立った。
区の担当者は「eスポーツ市場は成長し、五輪競技種目への採用も議論されている。将来、関連業界への就職を希望する子供がいれば、家族とともに後押しをしたい」と話す。
■社会とつながるツールに
eスポーツを用いた取り組みに支援団体や自治体が乗り出す背景には、子供たちを取り巻く環境の急激な変化がある。
文部科学省の調査によると、令和3年度に30日以上登校しなかった小中学校の児童や生徒は、過去最多の24万4940人(前年度比4万8813人増)となった。コロナ禍で学校が長期間休校するなどし、子供たちが将来に不安を感じたり、生活リズムが乱れたりしていることが影響したとみられる。
不登校や引きこもりの支援に詳しい愛知教育大の川北稔准教授は「eスポーツには将来の不安と距離を置いたり、仲間に認められることで自己肯定感が高まったりするなどのメリットがあるが、熱中し過ぎると生活リズムの乱れなどを助長するリスクもある。社会とつながりを持つ一つのツールと捉え、子供たちが打ち込む姿を保護者らが見守ることが大切だ」としている。(土屋宏剛)