芝野虎丸九段が3期ぶり名人返り咲き 井山は3冠に後退
令和元年に19歳11カ月の史上最年少で名人を奪取した芝野は、直後に打たれた王座戦で井山を破り、さらには十段も獲得して一時、3冠になった。しかし以降、井山と顔を合わせた3度の七大タイトル戦はすべて敗れていた。芝野新名人は「いい内容ばかりではなかったが、結果を残せてよかった」と語った。
3連覇を逃した井山前名人は本因坊・王座・碁聖の3冠に後退。3月の棋聖に続き2日制タイトルを1年に2つ失冠するのは、プロ21年目で初めて。
■にじませた「覚悟」
ついに第一人者を七番勝負で倒した。史上最年少で名人を奪った芝野だが、令和2年の防衛戦では井山に阻止された。2、3年と連続挑戦した本因坊戦七番勝負も、井山の前に屈した。とくに昨年の本因坊戦は、今回と同じ3勝1敗と追い込みながら第5局から3連敗。持ち時間各3時間の王座戦五番勝負(令和元年)では勝利していたが、2日かけ戦う持ち時間各8時間の対局は3連敗だったのだ。
無傷で3冠になるなど一時は破竹の勢いだった芝野だが、「囲碁は楽しいから打っている。あまり勝ち負けにはこだわらない」という姿勢だった。しかし今春、一力遼棋聖(25)の就位式に、棋聖戦Aリーグ優勝者として表彰された芝野は、冗談交じりながら一力棋聖に向け「同じ相手(井山前名人のこと)とばかり打ってもつまらないでしょうから」と、挑戦者として名乗りをあげたのだ。自らを発奮させるような宣言に、多くの棋士は覚悟を感じた。
そして有言実行。相手は同世代の一力ではなく10歳上の井山だったが見事、名人に返り咲き七大タイトル獲得を通算5期としたのだ。
一方の井山は、3月に棋聖10連覇を逃したのに続く失冠。平成14年にプロ入りし、23年11月に2冠(十段と天元)となって以降、2度の七冠独占を含め常に複数のタイトルを保持してきた井山にとって、同一年に2つを失冠したのは26年(王座、天元)と31・令和元年(十段、王座)以来。持ち時間が各8時間で、体力と精神力がより必要とされる2日制の対局を2つ失うのは初めての経験。「(第2局から)3連敗した内容はよくなかった。ギリギリのところで踏ん張れなかった。実力の差です」と頭を下げた。
令和の囲碁界を牽引する20代の一力棋聖、許家元(きょ・かげん)十段(24)、関航太郎天元(20)に芝野名人が加わった。世代交代の時期が近づいたのかもしれない。