テーマは「仮想空間」の大阪万博 妄想をイラスト化した同人誌『EXPO’70夢想 mini』
『EXPO’70夢想 mini』A5 16ページ 表紙・本文カラー
著者:目路楼
作者さんは1970年開催の大阪万博に行ったことなく、その跡地である万博記念公園内の施設、「EXPO’70パビリオン」を訪れたことで、この催しのことが大好きになったのだそうです。しかしどんなに行ってみたくても、会期は50年以上前に終わっています……。行先を失ったエネルギーを、作者さんは「行ったつもりになって夢想・妄想する」という手段で発散することにします。
ご本は「1970年の万博がもしも仮想空間でも開催されることになったら?」をテーマにしたイラストと解説がメインです。当時の建物や、案内役の制服などをベースに、「こんな新しい要素が追加されたら楽しいかも!」な部分が想像で足されています。
実はこのご本の製作期間は1週間ほどだそうで、取り上げられている施設は3館、まだまだこれから描きたい部分があるとのこと。しかし、フルカラーのイラストはカラフルで華やか、イラストを挟んで前後にある説明のマンガもかわいらしく、短い製作期間での勢いと、見せたいところをきちんと両立して提示されています。わくわくするポイントが「注目した部分はここ」「こんな展開だったりして」とページのなかに織り込まれ、イラストでも、文章でも伝わってきます。大好きの表現の仕方として過去に浸っただけでなく、もう一歩自分なりに踏み出して構築したところに、かわいらしい画風が相まって、やわらかな明るさを感じました。
勢いのもとになったのは、作者さんご自身の中にインプットされた情報量の多さだったようです。公園で魅力を知ったのをきっかけに、書籍などから情報を得たとのことですが、過去に盛大に盛り上がったものでも、全く記録がなければ、50年後にふりかえるのは困難だったことでしょう。今に残るものをたどることで次の発展にアウトプットできたもとには、豊富な記録があったとも言えると思うのです。
それでもご本の中では「当時の様子が掴み切れない」という部分が何度も出てきます。これがもし、詳細な記録に自由にアクセスできたら、もっともっと夢見る力は大きくなるのではないか……と、未来の会場を、仮想空間という情報が集合する場に設定されたイラストを見ながら思うのです。
作者さんの「行ってみたい」という夢に読み手も一緒に乗せてもらうことで、ページの中でわくわくする新しい会場を共有できました。シンボリックな部分をとっかかりに、過去と未来を一画面で見せることで、“今”にも思いをはせる、そんなことが自然と楽しめるご本でした。