竜王戦本戦「右の山」出場棋士の知られざる素顔[山口恵梨子の将棋がちょっと面白くなる話]
ということで、今回からは何回かに分けて、“山口目線”で竜王戦本戦の出場棋士や対戦カードについてお話ししていこうかなと思います。
まず注目したいのは一番右の山の戦い。1回戦は2組2位の森内俊之九段対3組優勝の高見泰地七段。勝ち上がった棋士は2回戦で1組2位の佐藤天彦九段と対戦することになります。
森内九段と高見七段は昔、練習将棋を指されていたというのを公言されていますよね。お二方とも人柄が温かく、後輩に慕われている棋士でもあります。
森内九段は将棋だけでなく、人としても本当に尊敬しています。今でも忘れられないのが、私が20代前半だった頃の酒席での出来事です。同席者からお酌をするように言われて、困っていた私を見て、森内九段が「私に任せてください」とおっしゃって、一番酔っている人の隣に座り、タイトル経験者でありながら、女流棋士である私の代わりに、全員分、お酌をしてくださったんです。しかも、その所作もすごくさりげなく、自然で、本当にすごいなと思いました。
高見七段とは普及の現場で一緒にお仕事をする機会が多いです。東京のスタジオでも、地方へ行っても、将棋ファン一人ひとりにいかに将棋を楽しんでもらえるかを考えていて、それと並行して対局でも結果を出しているのが素晴らしいなと思っています。以前、このコラムでも書きましたけど、「普及の努力」と「対局の努力」って全然、別物なので、それを両方、大切にするのは至難の業なんですよね。だけど、高見七段の場合、一緒に地方出張に行くと、帰るまでの間に熱心な高見ファンがどんどん増えていくんです。人柄や将棋への思いの強さがなせる業だと思います。