市井を写し続けた日仏写真家のコラボレーション。「本橋成一とロベール・ドアノー 交差する物語」展
東京都写真美術館はこれまで、日仏を代表する写真家の二人展シリーズを開催してきた。本展は、「木村伊兵衛とアンリ・カルティエ=ブレッソン東洋と西洋のまなざし」(2009)と植田正治 + ジャック・アンリ・ラルティーグ「写真であそぶ」(2013)に続くシリーズの第3弾となる。
ロベール・ドアノーは1912年、パリ郊外のジャンティイ生まれ。ルノー自動車工場専属の産業カメラマンなどを経て、39年、フリーのカメラマンに。とくに、パリで生きる庶民の生活をとらえた写真が高く評価されている。56年にニエプス賞、83年にフランス国内写真大賞を受賞。晩年はDATAR(国土整備地方開発局)による任務に参加し、フランス各所の撮影も行った。94年パリにて死去。
本橋成一は、1940年東京・東中野生まれ。68年に「炭鉱〈ヤマ〉」で第5回太陽賞受賞。以降、サーカスや上野駅、築地市場、チョルノービリ(チェルノブイリ)などを舞台に、写真家・映画監督として市井の人々の暮らしを撮影し続けてきた。主な受賞歴として、写真集『ナージャの村』で第17回土門拳賞受賞、映画「アレクセイと泉」で第12回ロシアサンクトペテルブルグ国際映画祭グランプリなどがある。2003年からは映画館「ポレポレ東中野」の運営も行なっている。
直接の接点がないように思われるふたりだが、実は一度、会う約束を交わしている。本橋は知人の紹介を受けてドアノーとパリのホテルで会う機会を得る。だが残念なことに、本橋を乗せた飛行機が遅れたため、直接会うことは叶わなかった。そこでドアノーは、受付に一冊の写真集『La Compagnie de Zincs』(フランス語で「カウンターの輩」の意味)を託す。そこには「本橋、カウンターの輩には気をつけたまえ。僕は奴らにとことんやられてしまったからね」とユーモラスなメッセージが残されていた。直接顔を合わせることがなかったゆえに生まれた、なんとも粋なエピソードだ。