「作らないこと」を続けてきた李禹煥の回顧展|青野尚子の今週末見るべきアート
1960年代末から始まった「もの派」の主要な作家として知られる李禹煥。哲学を学んだ彼は「関係」「余白」といった概念をもとに制作を続けてきた。今回の個展は彼自身が展示構成を手がけたもの。大きく彫刻と絵画のふたつのセクションに分け、ほぼ年代順に作品が並ぶ明快な空間だ。
中でも重要なのが、彼が1968年ごろから制作を始めた「関係項」と題されたシリーズだ。主に石、鉄、ガラスを組み合わせた一連の立体作品は会場でも独特の存在感を放つ。李は「自己は有限でも外部との関係で無限があらわれる」という。
「近代は抽象画の時代だと思います。その抽象画をマレーヴィッチやモンドリアンは当時、『コンポジション』と言っていました。『コンポジション』とは自分の頭で作り出した純粋性、自律性を重視したものであって、そこには他者が入ってこないのです。しかし人類の歴史の中で、抽象絵画が制作されたのは近代のほんの100年前後しかない、特殊な時代だと思う。僕は表現とはそのような自意識が拡大した閉鎖的なものではなく、外部との関連を持つ開放的なものであるべきではないかと思います。
お互いに言葉も違う人々が一緒に生きる、自分以外の要素を認め合いながら考える、そういった表現の次元をもっと開拓すべきというのが僕の考えです。1968年のフランスの五月革命やヒッピー・ムーブメントではそういった気運がありました。でもアートにそれが現れるのはずっと後になってからだったと思います」
李を始めとする「もの派」の作家たちは「作らないこと」を標榜してきた。アーティストは「作品を作る」ものだと思われていたし、現在もそう考えられている。「作らないこと」は勇気のいる行為であっただろう。
「そうですね、『作らない』ということは美術史や表現の放棄だ、文化の破壊だと激しく非難されました。でも僕は作ることを全否定しているわけではないんです。自分を抑制すること、制限することによって外部と対話できないか、何か一緒にやっていくことはできないか、ということを模索していたんです」