松尾芭蕉自筆の「野ざらし紀行」図巻、半世紀ぶり発見 京都の美術館
同美術館によると、2021年12月に大阪の美術商から購入した。この図巻を巡っては、1960~70年代に俳文学研究者の岡田利兵衞氏が図版と詳細な研究成果を出版しており、他の芭蕉の筆跡などとも照合して真作と判断したという。自筆本は2巻しか確認されておらず、もう1巻は天理大付属天理図書館(奈良県天理市)が所蔵しているが絵は描かれていない。
岡田氏の著作「芭蕉の筆蹟(ひっせき)」(68年)などによると、図巻は芭蕉の弟子に譲られた後、所蔵先を転々とし、昭和初期に大阪の実業家に渡った。その後、神戸の人物が入手したものを岡田氏が調べ、研究書を著した。岡田氏の所蔵資料を伝える柿衞(かきもり)文庫(兵庫県伊丹市)によると、70年代には美術館で展示されたこともあったが、その後は記録がないという。
芭蕉は、晩年の10年の多くを旅にあて、傑作「奥の細道」を残した。第1作となる「野ざらし紀行」は1684年8月に江戸をたって故郷の伊賀(三重県)へ帰り、奈良、京都などを巡って、翌85年4月末に江戸に戻るまでの約8カ月の旅程が基になっている。芭蕉が詠んだ43句と21場面の絵が1巻に収められ、冒頭の「野ざらしを心に風のしむ身哉(かな)」、桑名(同)で詠んだ「明(あけ)ぼのやしら魚しろきこと一寸」などが広く知られている。
江戸時代の俳諧を研究する藤田真一・関西大名誉教授(72)は、図巻は旅を終えた1、2年後に制作されたとみており「何のために絵を入れたのか、絵と俳句がどんな関係にあるのか、研究の進展が期待できる」と評価する。
図巻は、10月22日から福田美術館で開く企画展「芭蕉と蕪村/蕪村と若冲」で一般公開される。【南陽子】