平和の少女像に、配られたコンドーム。ソウルで日本軍「慰安婦」問題を語り継ぐ「戦争と女性の人権博物館」を訪ねる
日本人である私は、いったいどんな姿勢でこの博物館を訪れればいいのか。緊張しながら扉を開けると、笑顔で優しい雰囲気の女性スタッフが受付で出迎えてくれた。日本から来たと伝えると、日本語のオーディオガイドを貸してくれる。(ガイドは韓国語・英語・日本語。入館は公式サイトから事前予約制)
渡されたチケットには、ハルモニ(朝鮮人・韓国人・在日コリアンの高齢の女性。日本軍「慰安婦」サバイバーを指して使われることもある)の顔写真が印刷されている。チケットには5人のハルモニが印刷されており、日替わりでそのうちのひとりのものが渡される。この5人は、「慰安婦」としての過去を乗り越え、人権を守るために行動した女性たちだ。オーディオガイドをつけると、ハルモニの人生についての説明が始まる。
この博物館は、1~3部の展示で構成されている。「1部 過去、その重い時間の重なり」は、ハルモニたちが経験させられた苦しみがどれほどのものか、来館者の感覚に訴えかけるような工夫が凝らされたインスタレーション的な展示だ。
まず一度建物の外に出て、幅の狭い砕石道を通るのだが、その両側にはハルモニたちの苦しげな顔を模ったレリーフや、被害者によって描かれた絵が掛けられている。
そして細い階段を降りて地下展示館へ足を踏み入れると、暗く狭い部屋にハルモニの映像が浮かび上がっていた。地下牢のように閉鎖的な空間に、苦痛の声が充満する。私はまるで酸素が急に薄くなり何倍もの重力に身が圧迫されるような苦しさを感じ、ここに来たことを後悔しかけ、いますぐに逃げたいという感覚に囚われた。
しかし、なんとか堪えてその場に立ち、いま自分が感じている恐怖や苦痛など到底足元にも及ばない、被害者たちの痛みを想像してみる。どうやっても想像しきれない、安易に共感などできない経験の重みが、ずっしりと身体にのしかかってくるようだ。
地下から2階へと向かう階段展示には、ハルモニたちの顔写真と、韓国語・英語・日本語で書かれた彼女たちの訴えが掛けられている。
「生き残ったことが夢のよう。
夢と言っても過酷な悪夢だけれど。」
「悔しくてたまらない。青春を返しておくれ。
「たった一言でもいいから 心のこもった謝罪の言葉を聞きたい。」