古今東西 かしゆか商店【色鍋島の蓋物】
有田焼は17世紀に佐賀県の有田町で始まった磁器。町には今も100軒以上の窯元が並び、そこここに窯の煙突が立っています。この土地で370年以上にわたって「色鍋島」と呼ばれる色絵のうつわを作り続けているのが「今右衛門窯」。鍋島藩(佐賀藩)の御用赤絵師として将軍家や宮中への献上品を手がけた窯元で、優美なその作品は、明治期まで一切、市場に流通しなかったほど。透明な釉薬の下に藍色や墨色で描かれる「下絵」と、釉薬をかけた上に描かれる鮮やかな「赤絵(上絵)」とで、紋様を表すのが特徴です。
この日、見せてもらったのは上絵付けの工程。木造の工房には、輪郭を描く職人さんと色をのせる職人さんが横一列に並んでいます。静寂、緊張感、ピンと張りつめた空気。ひと筆ひと筆に集中している様子から、“自分自身のパーフェクト” を追い求めようとする向上心が伝わってきました。
「そうですね。完璧を求めるところにこそ、手仕事の本当の美しさがあるように思います」
と話すのは、現当主で人間国宝でもある14代今泉今右衛門さん。
「手描きですから、同じ柄でも線の長さがわずかに違うなどの揺らぎは生じます。ただし、作り手が最初からそれを意識してはダメなのです。完璧を求めてなお生まれてしまう揺らぎに、使う方が味わいを見出してくれたら十分」
そんな14代の案内で、作品が並ぶ陳列場も見学しました。伝統的な柄の飾り皿や酒器に加えて、斬新でキャッチーなうつわもたくさん。特に気になったのは、14代が作る「墨はじき」の作品です。墨はじきとは、墨で線画を描いてから色をのせ、低温で焼成することで墨の部分を焼き飛ばす技法。墨でマスキングした部分が柔らかな白い線として残ります。昔は背景に使われることが多かったこの技を、14代が “主役” として復活させたのだとか。
「過去を見直して組み合わせれば、再び “新しい形” ができるんです」
今回の買い付けは墨はじきの蓋物に決定。370年の歴史と共に、伝統への挑戦も刻まれています。