上野の森美術館で「VOCA展2022」がスタート。新進気鋭の作家たちが見つめる平面の現在地
29回目となる今回は大賞のVOCA賞が川内理香子に、奨励賞が鎌田友介と近藤亜樹に、佳作賞が谷澤紗和子と堀江栞に与えられた。また、大原美術館が同館独自の選考を経て決定する大原美術館賞には小森紀綱が選ばれている。これら受賞者も含めた全作家が一堂に会する「VOCA展」が上野の森美術館で開幕した。会期は3月30日まで。
今回の選考委員は家村珠代(選委員長/多摩美術大学教授)、荒木夏実(東京藝術大学准教授)、植松由佳(国立国際美術館学芸課長)、川浪千鶴(インディペンデント・キュレーター)、前山裕司(新潟市美術館館長)の5名が努めた。
川内理香子のVOCA賞受賞作品《Raining
Forest》は、川内が2018年から制作している「Mythology(神話)」シリーズのひとつ。ペインティングナイフでジャガーを描いた大型作品で、食への興味や違和感をベースに、行為としてのドローイングを意識しながら続けてきた川内の手つきがありありと伝わる作品だ。
あるときは自然と人間を結合させ、あるときは分断する、ジャガーという存在の両義性に注目して本作を制作した川内。「肉体と精神の狭間で揺れ、自己と他者の曖昧さを保有する身体とも重なり、物質とイメージや思考の結合である絵画という媒体の中で鎮座する」と本作について述べている。
川内を推薦した千葉市美術館学芸員の森啓輔は次のように選考理由を述べている。「自己と他者、内部と外部といった境界が曖昧な内臓の襞のようであり、グローバル化と分断が支配する現代に多層的な問題を提起している」。
VOCA奨励賞は鎌田友介と近藤亜樹だ。鎌田の受賞作《Japanese Houses(Taiwan / Brazil / Korea / U.S. /
Japan)》は調査を踏まえたうえで、床の間を模した構造に台湾、朝鮮半島、ブラジルにおける日本家屋の現在や、焼夷弾実験用の日本家屋をコラージュ。推薦者の福岡市美術館学芸員の正路佐和子は「現代日本社会の歴史の忘却に抗う行為といえる」と評した。
近藤の受賞作《ぼく
ここにいるよ》は、子供が「ここにいる」ことの不思議と感謝から絵筆を持った作品だという。推薦者の高松市美術館学芸員の毛利直子は「こどもが社会的存在となる過程における『個』の見失いを危惧する近藤だからこそ、かけがえのない命のあるがままを描き続ける」とその制作姿勢を評価した。
佳作賞の谷澤紗和子と堀江栞。谷澤の《はいけい ちえこ
さま》は、洋画家、紙絵作家であり、詩人・高村光太郎の妻としても知られる高村智恵子をめぐる連作だ。愛知県美術館学芸員の中村史子は本作の推薦理由を次のように述べている。「谷澤は、智恵子が『青踏』に寄せた鈴蘭の絵をモチーフに取り入れる。そして女性の表現者に対する固定概念を変えようと試みる」。
《後ろ手の未来》は、パリ留学時代に人間というモチーフに取り組み始めた堀江の作品。推薦者である原爆の図丸木美術館の岡村幸宣は次のように評している。「長い歴史をもつ絵画の領域をひたむきに歩む姿勢は、時代や地域的な傾向を超越し、主題の普遍性を際立たせる。孤独ゆえの連帯と継承を示唆する精神と表現の結晶は、今日、人間の像を描く本質的な意味を考えさせられる」。
大原美術館賞の小森紀鋼は、古今東西の美術、宗教、哲学などを組み合わせて独自の物語を表現。受賞作《絵画鑑賞》について、静岡大学専任講師の立花由美子は、小森の絵画の知識と技術を評価したうえで「一つの画面の中の異なる物語を、あたかも『一つの物語』であったかのように調和をもってまとめている」と述べている。
会場では受賞者以外にも気鋭の作家の作品が揃う。なかでも、架空の画家が描いたとされる作品を制作するユアサエボシの、昭和期の日米の関係をも示唆するようなモチーフが描かれた作品《夢》や、19世紀に描かれたとされる《琉球交易港図屏風》を参照しながら、琉球の歴史と誰もが知る沖縄像を視覚的な対比として表現した泉川のはなの《南国遊覧之図》などに注目したい。
また、過去の絵画を支持体に、時間の蓄積を積層として表現する野原万里絵《知覚の標本》や、インターネット上で収集した3DCGの素材を彫刻として構成して撮影することで、仮想空間における実存の在り処を揺るがす平田尚也《Shelf
under the Moutain》など、ほかにも新たな平面表現への挑戦を感じさせる作品を会場では見ることができる。
「いま」を感じられる作家たちの作品が出揃った本展で、平面の表現における現在地を探ってみてはいかがだろうか。