俳句に固有名詞を持ち込むときに気をつけたいこと
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固有名詞といってもいろいろありますが、俳句によく登場するのは、地名、人名、美術や音楽、小説などの作品名、商品名などでしょうか。
固有名詞を作品に持ち込むと、それを知っている特定の人にしか通じないとか、個人的な感慨に終わりやすいというので、避けたほうがよいといわれます。
確かに、聞いたことのない地名が突然出てきても、それがどんなところで、一句の中でどうはたらいているかがつかめず、戸惑うことが少なくありません。また、科学者や芸術家など、その世界に詳しい人なら知っているという名前が登場すると、一般の人には何のことか分からず、暗号のように思えてしまいます。
逆に、多くの人が知っている場合、固有名詞があるために陳腐になってしまうということもあります。たとえば、画家の名前が出てくる句があります。「ユトリロの白」「ゴッホの黄」「フェルメールブルー」などのフレーズとして用いられ、しゃれた雰囲気(ふんいき)を醸し出しているといえるでしょう。
確かに、最初に使った句では、新鮮に感じられたと思います。しかしながら、同じようなフレーズを誰もが使い始めると陳腐になり、どこかで見た句という印象を与えてしまいます。
また、厳密には固有名詞とはいえないかもしれませんが、「富士見坂」「平和通り」「城山」といった名称もあります。どの街に限らず、あちこちにありそうな名前です。それぞれのことばには意味があり、分かりやすいのですが、そのことばの意味に引きずられると、常識的な俳句になりかねません。
■『NHK俳句』2022年1月号より