名作家具が一堂に会した空間で、フィン・ユールとデンマークデザインの変遷を辿る。|小西亜希子の北欧デザイン通信
フィン・ユールは1912年にコペンハーゲンの瀟洒な街、フレデリクスベアで生まれた。幼い頃から美術や絵画に多く触れ、当初は美術史家を目指していたが、父親の反対にあいデンマーク王立芸術アカデミーで建築を学んだ。在学中、教鞭を執っていたヴィルヘルム・ラウリッツェンにその才能を認められ、彼の事務所に入所。以降、約11年間在籍し、〈カストラップ空港〉や〈ラジオハウス〉など、デンマーク建築史に残る作品をともに手がけている。
事務所に在籍中の1930年代以降の建築作品における意匠や家具には、フィン・ユールがデザインしたと思われる有機的な曲線のソファなどがあり、家具デザイナーとしての片鱗はこの時からすでに現れていたようだ。
一方、デンマークデザインの変遷をみると、20世紀初頭ドイツで生まれたバウハウスを中心に、建築や芸術、デザインにおける分野ではモダニズム運動が盛んになった。1930年にはスウェーデンの建築家、グンナー・アスプルンドが総監督を務めた『ストックホルム博覧会』を通じ、機能主義が到来を告げる。
本展では、それに呼応する若きデンマーク人デザイナーたちが、伝統から解き放たれ、新しいデザインへと舵を切り発展していく過程が、家具の展示とともにひも解かれていく。
1924年、デンマーク王立芸術アカデミーに初の家具科が創立された。初代の責任者として家具デザインを先導したのはコーア・クリント。クリントは過去の優れた家具を分析し、その機能や構造を研究。椅子や家具を使う人の動作、寸法など人間工学についても研究し、過去の様式を新たにデザインする「リデザイン」と呼ばれる画期的な手法を確立した。
そしてクリントは、自身に師事していたオーレ・ヴァンシャーやボーエ・モーエンセンなど、後に活躍する優れたデザイナーを育成。この「リデザイン」の思想が、やがて1950年代から60年代にピークを迎える、デンマーク家具デザインの黄金期へ大きく影響したと言える。