古今東西 かしゆか商店【打ち出しの中華鍋】
「鉄が不足していた時代でしたが、鍋がなくちゃおいしいものが作れない! とドラム缶の底を切って曲げて鍋にしたのが私の父。その後も、地面に丸く穴を掘って鉄板を置き、ハンマーでトントン叩いて鍋を作っていたそうですよ」
と話すのは2代目の山田豊明さん。初代の心意気を受け継ぎつつ、鉄板を機械式ハンマーで叩いて成形する“打ち出し製法”で鉄製の鍋を作り続けています。
「叩くことで金属の組織が締まり、頑丈で熱の伝わりも早い鍋になるんです。表面に細かい凹凸ができて油なじみもよくなります」
そんな山田さんの案内で、まずは鉄板をカットする工程から見学。板は厚いもので。ガコンッ! というプレス機の轟音振動とともに、本体の円い部分と取っ手になる四角い部分が繋がった鍵穴のような形に切り抜かれます。それを打ち出し機械にセットし、ハンマーで叩きながら鍋のフォルムに成形。機械1台ごとに専門の職人さんがいて、ハンマーが入る角度などは個人個人のクセに合わせて調整しているそうです。
「“鉄を叩く” と言うと普通は熱して成形しやすくしますが、ウチは熱を入れません。鉄板を10枚重ねたところを何千回も叩き、時間をかけて成形するのが特徴です。こうすると鉄の組織が密になり、丈夫なまま、コンマ数ミリまで薄くできる。火の当たる鍋底が薄くなるので、熱伝導もよくなります」
本体ができたら、取っ手部分も筒型に曲げてほぼ完成。本来は負荷がかかるはずの“継ぎ目”がない一体型なので、壊れにくく長持ちするのだとか。しかも試しに持たせてもらったら、見た目の印象よりずっと軽くてびっくり!
「おいしく作るコツは大きな鍋で少量炒めること。炒飯1人分でも2~3人用鍋で作ってみて」「油を引くのは煙が出るまで熱してから」「使用後はお湯で洗い、油を落とし切らないで。油がなじめば焦げつきにくくなる」と、使い方も丁寧に教えてくれる山田さん。
「鉄鍋は最初から良い鍋なのではなく、使って良い鍋になるんです」
なるほど、使い方によって育ち方も変わる。よりよい道具になるかどうかは自分次第なんですね。
左/お玉1,220円。中/ヘラ1,100円。右/2~3人用の27cmを買い付け。10枚重ねて成形するため、叩いた跡が残るのは数枚に1枚。IH不可。φ27×H8cm 3,993円。●やまだこうぎょうしょ/神奈川県横浜市。〈釜浅商店〉TEL 03 3841 9355などで販売。