世界文化賞は挑み続ける「芸術が描く調和ある未来」ヴェンダース X SANAA
ヴィム・ヴェンダース監督は自分の作品について「ドキュメンタリーのようなフィクション、あるいはフィクションのようなドキュメンタリーが多い」と語る。確かに作品を見渡すと、ここ2、30年はドキュメンタリーでも存在感がある。
日本の“兄弟”と呼ぶファッションデザイナー山本耀司氏を密着取材した『都市とモードのビデオノート』(1989年)やキューバの老ミュージシャンたちを記録した『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(1999年)、ドイツ人舞踊家、ピナ・バウシュ氏と彼女のダンスカンパニーを3D技術で捉えた『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』(2011年)などの名作がフィルモグラフィーに並ぶ。
世界文化賞は、絵画、彫刻、建築、音楽、演劇・映像の5部門で、国際理解の礎となる文化・芸術の発展に貢献した芸術家を顕彰するものである。今年は偶然にも、かつて分野を超えてアートを共同創作した二組の芸術家が、同時に世界文化賞を受賞している。
その二組とは、演劇・映像部門のヴェンダース監督と建築部門のSANAA(妹島和世さん、西沢立衛さん)である。SANAAが手掛けた建築をヴェンダース監督がドキュメンタリー作品にしている。
「世界でも類を見ない」と監督が称賛する建築物は、スイス連邦工科大学ローザンヌ校のキャンパス内に作られた『ROLEXラーニングセンター』。数十万冊もの蔵書がある図書館や自習スペース、誰でも利用できるカフェやレストランも併設された複合学習施設である。
波打つような緩やかなカーブの曲線が、まるで呼吸しているかのような外観。うねりが生み出す静謐なハーモニー。その特徴的な構造を表現するために、ヴェンダース監督は3D技術を採用し12分の短編ドキュメンタリー『もし建築が話せたら…』(2010年)を作った。
ヴィム・ヴェンダース(以下、WW):
一層構造の建物にもかかわらず、中に入ると丘のような造りになっていて、エレベーターなしに上がり下がりができます。この建物をどう映像で伝えられるかを考えた末、実際行ったことがない人たちに三次元の体験で見てもらいたいと思いました。
妹島さんと西沢さんにセグウェイに乗って館内を案内してもらうという発想も、その場で出てきました。皆さんに、私たちクリエイターと同じものを感じてもらうことが重要なのです。
WW:
『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』もそうした発想から始まりました。振り付けやコスチュームのデザインをどのように考えているか感じる。自分でない人のアプローチを想像する。それは地球における偉大な冒険です。自分とは異なる芸術分野にいる人が、何をどのように創造していくかを皆さんに体験してほしいのです。