人付き合いは希薄、地下鉄は1路線、近所できのこ狩り…フィンランドに留学した大学生が感じた「都市」の違い

今回は先日開催された第7回のイベントレポートをお届けしよう。「学び、考え、動いた私のスクールライフ~渋谷から国立、そしてヘルシンキへ~」と第された講演は、学生向けの内容ではあるものの、社会人にとっても子育てのヒントを得たり、課題解決への理解を深める機会になるはずだ。
若き学生たちと未来について探求する「KITE Project」について、神武教授の導入からイベントは始まった。KITEとは英語で「凧」を意味し、その名が示すように、小・中・高校生が見晴らしの良い高みから物事を眺め、新たな未来について考えることを促すプロジェクトである。また、学生たち(凧)が、希望や不安など色々な想いを巡らせているだろう将来(大空)に、しなやかに飛んでいける考え方やヒントを得る機会にしたい、という想いも込められている。
このプロジェクトは、ただ子供たちが新たな知識や経験を得るだけでなく、「システム思考」や「デザイン思考」を通じて、0から1を生み出す力を育むための場となっている。これらの考え方は、大学院レベルで学ばれているものだが、神武教授はこれを小・中・高校生にも伝え、早期に創造力と視野を広げる機会を提供したいと語った。
今年は「Keio Meet the Future Grobal Project」と名前に「グローバル」が加わり、プロジェクトの範囲がさらに広がった。神武教授は、日本を世界から、世界を日本から見る視点の重要性を強調し、全世界から活躍する人々をプロジェクトに巻き込むことを志向している。
今回のプレゼンターは一橋大学社会学部の4年生で、現在はフィンランドのアールト大学に留学中の小山栞奈さん。彼女は遠くフィンランドのヘルシンキからリモートで参加。神武教授の紹介により画面に小山さんが現れると、彼女はフィンランドの街を紹介しながら地下鉄に乗り、アールト大学へ到着するという演出でそのプレゼンをスタートした。
彼女の話は、ヘルシンキへの旅立ちに至るまでの生い立ちから始まった。幼少期はやんちゃで競争心に溢れ、合唱団に入っては夏のNHKコンクールに向けた練習に熱心に取り組む日々を過ごしていたと語る。
中学時代には部活が生活の中心で、彼女は陸上部と英語ディベート部の2つに所属していた。特に英語ディベート部には強い思い入れを持っており、その経験が彼女の英語力を飛躍的に向上させる契機となった。英語の勉強を始めたのは中学時代で、最初はアルファベットの「b」と「d」すら書き分けられないほどだったという。
「とにかく英語が苦手でいろんな人に心配をかけたんですが、帰国子女の方と一緒にチームを組んで取り組むことで、『ディベートに向けて話さなければいけない状況』に自分を追い込んでたくさん練習をする中で、だんだん喋れるようになっていきました」
英語でのコミュニケーションを学ぶことから海外への興味を強めた小山さんは、中高時代に2度の留学も経験した。
「私が行ったのはオーストラリアとシンガポールの2カ国で、どちらもホームステイだったのですがオーストラリアでは語学を、シンガポールでは文化交流をメインに留学をしました」
交換留学ではバディと共に互いの国を行き来しながら、それぞれの国の文化の違いを体験し交流した。この経験が彼女の視野を広げ、さらに異文化への理解を深める機会となったという。
「やってみたいことは何でもやろう」という小山さんの中高時代は、授業以外のチャレンジも含め、充実したものだった。ここで彼女が出会ったのが、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)との「高大連携プロジェクト」だった。このプロジェクトは小山さんの高校と慶應義塾大学が連携して実施したもので、ここで彼女は「渋谷地域の課題解決をしよう」というプロジェクトに携わることになる。小山さんのチームは、原宿近くの「竹下通りのポイ捨て問題」に取り組んだ。
その手法は現地調査、つまり「フィールドワーク」から始まるもので、実際に現地に足を運び、ゴミがどのようにポイ捨てされているか、誰がポイ捨てをしているかを調査し、その結果を慶應大学のメンターに提出し、フィードバックを得ては分析を繰り返した。
最終発表では、ラップソングを通じてポイ捨て問題の啓発を試みた。ユニークなアプローチだが、これは竹下通りの混雑具合を考慮し、楽しみながら聞いてもらえる手法が効果的だと考えた結果だった。このプロジェクトを通じて、フィールドワークの重要性を実感したのと同時に、自身が通学していた渋谷という地域についても気づきがあったという。
「私はずっと渋谷の学校に通っているのに、そういえば渋谷の人と全然交流したことがないと気がつきました。そのころ、ちょうど高校で卒業研究があったんですが、せっかくなので『高校生とその周りにいる地域の大人がもっと交流するには』ということをテーマに研究を行いました。高校に入るまでほとんど東京でしか過ごしたことがなかったので、長野市・白馬村でフィールドワークをすることにしたんです。私と白馬の高校生は同い年なのに、住んでる場所が違うだけで考え方や地域の人との関わり方がまるで違いました。実際に行って気づけたことは、とても大きな発見だったと思います」
こうした経験を通じて、小山さんは自身の研究が直接社会につながることに魅力を見出し、大学ではさらにその学びを深めることを決意した。その結果選んだのが、「社会科学の総合大学」といわれる一橋大学だ。現在、小山さんは一橋大学の社会学部で「都市緑化」についての研究を進めている。そして、さらに視野を広げるため、現在はフィンランドのアールト大学に留学中だ。アールト大学は工学、芸術・デザイン、ビジネスの3つの分野の学校が合併してできた新しい大学で、異なる専門分野を持つ学生たちとの交流が日常的に行われている。
「この大学のキャンパスを歩いていると、全然違うことを勉強している人たちがたくさんいて、そんな環境で刺激を受けながら勉強できるのはとても楽しいです」
ここで神武教授から「1年ほどの留学期間で、最も驚いたことや記憶に残ってることは?」とたずねられた小山さんは、環境のインターナショナルな部分に驚いたと答える。
「私はフィンランドに興味を持ってアールト大学に来ましたが、フィンランド人以外にもいろんな国から来た学生がいます。授業にもよりますが半分ぐらいは海外から来ている人。フィンランドの公用語はフィンランド語とスウェーデン語なんですが授業は英語で行われます」
そのため、同じテーマについて学んでも、異なる文化背景から来る人々との交流により、知識が何倍にも膨らみ、ディスカッションも深まるそうだ。続いて「留学を目指している学生へのアドバイス」を求められた小山さんは、彼女らしいエネルギッシュな回答を語った。
「自分で言うのもなんですが、私はがむしゃらな性格で、『とりあえず何か考える前にやりたい、面白そうって思ったらとりあえずやってみよう』というマインドでこれまでやってきたんです。始めてみたらうまくいかないことばかりで、他の人よりも全然できないことがたくさんありました。負けず嫌いなので悔しい思いをすることもありました」
「でも、今でも『迷っちゃうときはあんまり考えずにやってみる』『失敗したらそのとき考えればいい』ぐらいの気持ちで臨んでいます。ディベート部にいた頃も最初は全然喋れなかったけど、結構喋れるようになりましたし。20年間、そうやってきました。なので迷っている人、悩んでいる人は、「とりあえずやってみる」というのがいいと思います」