古今東西 かしゆか商店【樺細工の茶筒】
町のそこここに400年前の武家屋敷が残る秋田県の角館。桜の名所でもあるこの町で、武士の副業として始まったのが樺細工です。樺とは山桜のこと。万葉集の中に、山部赤人が山桜を「かには」と詠んだ長歌があり、それが「かば」になったと言われているそうです。
今回訪ねたのは、創業170年の〈藤木伝四郎商店〉。「角館伝四郎」というブランド名で、職人の手仕事による茶筒や日用品を提案しています。中でも気になったのが、伝統工芸士、米沢研吾さんの茶筒。模様の美しさと使いやすそうなサイズに惹かれました。
「昔から柳宗理さんのデザインが好きなのですが、父親の柳宗悦さんも樺細工に興味を持っていたと知り、古臭いと思い込んでいた地元の工芸の魅力に気づきました」
と米沢さん。自然光の入る仕事場には、山桜の皮や道具がとてもきれいに整えられています。
「茶筒は、筒状の木型を使う“型もの”の技法で作ります。木を薄く削った経木や桜の樹皮の裏に膠を塗り、熱したコテで押さえて皮同士を貼り合わせる。芯になるのは経木、表面は山桜の皮ですね」
こうして筒型になったものを二重に重ね、外側の筒だけ蓋と身を切り分けます。カットする位置は人それぞれ。感覚が頼りです。
「蓋と身の比率をどうするかによって、表情が大きく変わります」
樺細工の茶筒が二重構造になっているなんて知らなかった。だから蓋と本体がぴったり合わさって、密閉性も高くなるんですね。
さて、「伝えたいのは山桜の美しさです」と言う米沢さんに、茶筒用の樹皮を見せてもらったところ、こんなにゴツゴツした皮だったの!? と意外な質感にびっくり。
「皮の表面を削ることで赤茶色の層が現れる。それを磨くことで柄や光沢が生まれるんです。種類もたくさんあり、一枚一枚すべて違います。光沢のあるあめ皮や、厳しい環境で育ったひび皮。樺細工用の皮は、立っている生木から剥がすのですが、数年経つと新しい皮が再生する。それがコルクのような風合いの “二度皮” です」