江戸時代から人気者! 猫まみれの浮世絵を見に行こう|青野尚子の今週末見るべきアート
古くは弥生時代に遡るという説もあるほど、人と猫の付き合いは長い。浮世絵にもペットとしてかわいがられる猫や化け猫として恐れられる猫、擬人化されていろいろなポーズをとる猫たちが描かれる。「江戸にゃんこ 浮世絵ネコづくし」展はそんな猫たちの絵を集めた展覧会。全点に猫が登場する、猫まみれの展覧会だ。
もともと日本の絵師がお手本としていた中国絵画では、「猫」の発音が「七十歳」を、「蝶」が「八十歳」と通じることから、蝶とセットで長寿を願う吉祥画題の花鳥画として描かれることが多い。が、江戸時代の日本では単なる動物ではなく、人間の友だちや仲間として扱われるようになる。
たとえば鞠を頭や肩の上に載せる曲芸を見せる猫。これは人間が演じていた芸を擬人化した猫に置き換えたものだ。人間でも難しい曲芸を浮世絵の猫たちは楽々とこなしてみせる。《其まゝ地口 猫飼好五十三疋 上中下》は東海道の宿の名前を魚など、猫に関するさまざまなものの駄洒落にしたもの。自身も大の猫好きだった、歌川国芳の作品だ。
吉原遊郭の遊女になった猫もいる。この頃は天保の改革により役者絵や遊女絵が禁じられたため、猫の姿に託して人気の歌舞伎役者や遊女が描かれた。ただし猫の役者絵の中には天保の改革前に描かれたものもある。お上に禁じられて仕方なく、というよりも猫が歌舞伎を演じたら面白い、かわいいという発想からだったようだ。
たくさんの男性を寄せ集めて人間の顔を形作るアルチンボルド的な浮世絵があるが、猫も集まって別のものになることがある。「嵌め絵」と呼ばれる手法で、歌川国芳らが多くの作品を残した。その国芳による、侠客の髑髏の模様の着物はよく見ると猫が集まって作られている。国芳の弟子の歌川芳藤はくるんと丸まった猫たちが大きな猫を形作る、という絵を描いた。現実にはあり得ないポーズを決める猫たちのドヤ顔も愛らしい。