都心に現る「いきもの図鑑」。人と自然の境界を問う「六本木アートナイト2023」
プレスビューには、今年のメインプログラム・アーティストである栗林隆+Cinema Caravan 志津野雷が登壇。昨年、日本人として唯一参加した
「ドクメンタ15」
での経験を踏まえ、「新しい時代を前にしてどのようにつながっていくのか。どのようにコミュニケーションをとっていくのか。それらを確かめる実験の場となればいい」と意気込みを語った。
当日は、「境界」をテーマとしたインスタレーションを展開する栗林と、多様なメンバーによって構成されるコレクティブCinema
Caravanとともに、アートエネルギーを船に載せ、世界中に届ける《Tanker Project》を六本木ヒルズアリーナで発表予定だ。
さらに今年は、海外プログラムとして招聘された国際的なパフォーマンスカンパニー「Close-Act
Theatre(クロースアクトシアター)」による《White
Wings》にも注目したい。音楽と光の演出とともに繰り広げられるダイナミックなパフォーマンスは、2日間で計6回(各日3回)公開される。
六本木ヒルズのエリアからは3つの作品を紹介する。ヒルズ前の66プラザでは、フランス出身のアーティスト、エマニュエル・ムホーによる記憶のインスタレーションが展開されている。100色のレイヤーによるグラデーションは過去の時間の流れを示しており、本作を通じて鑑賞者が記憶に思いを馳せる機会を創出するという。
ヒルズ内には、かつての「西洋への憧れ」を昭和43年頃に流行した花柄毛布やリカちゃんハウスで表現した江頭誠による《DXもふもふ毛布ドリームハウス》や、日本各地に伝わる謎の古神「シュク」の現代的な憑座(よりまし)として大小島真木+Maquisによるサイボーグ御神体《SHUKU》が展示されており、商業施設内とアートが交差する独特な空間をつくり上げている。
東京ミッドタウン・国立新美術館方面へ向かう途中の六本木商店街にもアートナイトのプログラム作品が点在しているためお見逃しなく。世界40ヶ国、150回以上開催され、地球上で拡散を続けるポスター展《トレランス・ポスター展》が日本初上陸しているほか、仮囲い上に展示されている松田ハルやナカミツキによる大型平面作品も、六本木の街なかに溶け込みつつも存在感を放っている。
国立新美術館にはメインプログラム・アーティストのひとり、鴻池朋子による「いきもの」たちがその姿を現している。サイトスペシフィックな表現を用いて、美術館のなかだけではないアートのあり方について問い直し続けている鴻池は、2021年に角川武蔵野ミュージアムの外壁に1年間取り付けられた《武蔵野皮トンビ》を再展示。同作は縫製した床革に水彩で描いたものだが、1年間の屋外展示を経て、そのかたちが当初より変化している。このトンビは鑑賞者に「自然は時とともに変化していく」ことを改めて伝えてくれる役割を担っている。
また同会場には、鴻池が重要なモチーフのひとつとする狼からその目線を獲得するための《狼ベンチ》をはじめ、2014年から継続されてきた手芸を用いたプロジェクト《物語るテーブルランナー》、《陸にあがる》、《アースベイビー》といった各地で展示されてきた作品が点在している。これらの作品群は鑑賞者一人ひとりに対し、人間と自然の関係性やその営みといった大きなつながりを、美術館という枠を超えて気づかせてくれるものだ。
同館で開催中のパブリックスペースを使った小企画シリーズ「NACT
View」では、築地のはらによる《ねずみっけ》が公開されている。館内を動き回るねずみのユニークな動きに注目しながら、その姿をとらえてみてほしい(アートナイト期間は特別バージョンのアニメーションを公開)。
ほかにも、人間と蜂が関わりあおうとする様子が記録された連続写真をビルボード広告形式で屋外展示するうらあやかや、国立新美術館周辺で採集した土と水を用いて屋上庭園でつぼをつくり続けるしばたみづきも、六本木というこの都会のなかで、人(いきもの)や自然の関係性を問い続けるような作品を提示している。
六本木アートナイトは華やかなイベント性もあるいっぽうで、世界の大きな物事や本質をとらえようとするアーティストたちによるひとつの実験の場でもある。栗林、Cinema
Caravan、鴻池朋子が牽引して人と自然の境界を問うていく2023年六本木の夜、鑑賞者もオープンな姿勢でこのテーマについて考えてみてほしい。