「音楽通じ友人の声世界へ」大阪の歌手、ウクライナ民謡のCD発売へ
◇10年前から交流重ね
大阪府八尾市に住むOno Akiさん(51)は30代前半から歌手として活躍し、ジャズ、オペラ、クラシックなど幅広く手掛けている。夫の小野元裕さん(53)は日本ウクライナ文化交流協会の会長を務める。その縁で、協会の活動の一環として、2012年からほぼ毎年ウクライナを訪れ、日本の伝統文化や芸能を紹介。自身も現地でコンサートを行い、首都キーウ(キエフ)で開かれたジャズフェスティバルに出演したこともある。
22年9月、元裕さんとともにリビウなどウクライナ西部を訪ねた。印象に残ったのは街中の人々の険しい表情だ。「緊迫した雰囲気を感じた」と振り返る。
滞在中に大学でライブを開き、ウクライナで親しまれている歌や国歌などを披露した。子どもからお年寄りまで100人近くが集まり、盛況だった。音響機材がそろわず、アカペラで歌ったが、観客は「日本からわざわざ来てくれた」と喜んだという。
Onoさんはロシアによる侵攻以降、CDを制作するアイデアを温めてきた。「ロシアの理不尽さに憤りや悲しみを感じた。私にしかできないことを考え、音楽を通して友人たちの声を世界に届けることだと思った」と語る。
ウクライナには各地に多くの民謡が伝わり、テンポが速く明るいものから、悲しみ深いものまで曲調もさまざま。収録曲はウクライナの友人に相談しながら、キーウの街並みを表現した歌や愛国歌など7曲を選んだ。
その中の一曲に選んだのは「プリーネ カーチャ」。死を前に母親への思いをつづった曲で、古くから歌い継がれてきた。ロシアによる14年の南部クリミア半島併合以降、戦闘で兵士が亡くなった時などに歌われる機会が増えたという。
プロミュージシャンが奏でるギターやバイオリンに合わせて、Onoさんが情感豊かに表現した。
◇同情よりも文化を知って
大阪に住むウクライナ出身の女性2人もOnoさんの呼びかけを受けて参加している。コーラスを務めた中部の都市ジトーミル出身のアナスタシアさん(27)は日本のロック音楽が好きで、約8年前に来日し、「NASU」の名前でモデルとして活動している。ウクライナで暮らす両親や弟を思い、不安は尽きない。日本でウクライナへの関心は高まったが、「大変」「かわいそう」と同情されることに複雑な思いもあった。
侵攻だけでなく、ウクライナの文化にも関心を持ってほしいと、Onoさんの協力要請を快諾した。「自分が音楽を通じて日本に興味を持ったのと同じように、日本の人にもウクライナのことを知ってほしい」と語る。歌手のエバ・ハダシさんも一部の楽曲でメインボーカルを務めている。
CDのタイトルは「2・24 5a.m.」。添付されたCDブック(32ページ)にはウクライナ語の歌詞と日本語訳、解説のほか、Onoさんのメッセージも掲載している。1枚3300円(税込み)で、売り上げの一部をウクライナ支援に充てる。問い合わせ先は日本ウクライナ文化交流協会(072・926・5134)。【宮川佐知子】